第90話 新しいスカートへのお願い




「せっかくだから、制服のイメージカラー変えたいよね」


「これまでは黒系だったからね。格好良くて人気はあったけどね」


「やっぱりここの色は青と白かしら……」


「マリンかネイビーブルーがいい!」


ポートって呼ぶくらいなんだから、やっぱりセーラー襟は譲れない!」


 渚珠が打ち出した制服リニューアルの案には本人が思っていたよりも大きな反響を呼んだ。


 そもそも現在のものはALICEポート設立のときに凪紗と弥咲が倉庫の中で他で使われていないデザインのものを急いで選んだものだから、全員が揃い、イメージを変えることになる計画を進める中で、やっておきたいことの一つに上っていた。


 今回はいろいろな写真を見ながら、自分たちでデザインしたものを採用できるよう手はずも整えた。


 もちろん、これまでの色々な活動を評価されてのいわばご褒美という側面に加え、これからの期待を込められたというおまけも付いた。


 トップスの方は予定よりも意外にすんなりと決まった。


 ブラウスは長袖と半袖の二種類。デザインは同じで、純白の地のセーラー服。ただし、特徴の襟は後ろ側では角を取り、前側も直線ではなく胸元の蓋の付く内側と外側のラインも緩やかなカーブをつけた。


 特徴的な襟や袖口には色を比較した結果、ネイビーブルーのラインをあしらい、スカーフが多い正面の合わせ部分にはやはり同じ色合いで合わせたリボンタイをワンタッチのタックピンで留める。自分で結ぶタイプにしなかったのは、各自の器用さではなく、業務内容やスクランブルのときに取り付け外しが迅速にできるようにと採用になった。


 逆に難航したのがボトムスの方だ。弥咲のようにスカートよりもパンツスタイルの方が良い業務もあるし、スカートは膝上と膝下と合計三種類を用意する予定にしていた。


「短い方、どうしよう。風が強いことも多いから、ロングだと巻いちゃうし、短いとねぇ……」


「渚珠ちゃんの事故みたいなときに、さすがに下着丸出しはねぇ……」


「でも、キュロットだと微妙だしなぁ」


「じゃぁ、中にインナーパンツがあるスカパンにしちゃう?」


「うーん、毎回必要って訳じゃないし……」


「それなら、ボタンで取り外し出来るようにしておけばいいよ」


 話がまとまりかけたとき、それまで静かにこの騒ぎを見ていた凪紗が「ちょっと……お願いしてもいいかな……」と、口を開いた。


「どうしたの?」


「あの……、スカートなんだけど……、どっちかで構わないからハイウエストにして貰えると助かるんだけど……だめかな……」


 よく考えてみれば、現行の制服も上着を脱いでみれば、ウエストのラインは通常のスカートに比べ高い位置にある。


 誰もが何も考えずに身に着けていたけれど、凪紗の様子ではこのデザインにも理由がありそうだった。


「ううん、リクエストは全部出してもらって、そこから作ればいいんだもん」


 渚珠の返答に少しホッとした様子をしている凪紗。これはデザインの嗜好というよりも、何か別に理由がありそうだとピンときたメンバーも多かった。


「凪紗、まだ完治ってわけじゃないんだ……」


 弥咲の様子では凪紗の発言の理由を知っているらしい。その視線が凪紗の腰の辺りを見ていることにも関係しているのだろう。


「うん……。これは一生だって言われちゃってるくらい。そっか、うちには美桜ちゃんが来たんだもんね。ここで診てもらえばいいんだよね。美桜ちゃん、整形外科も診てもらうことできる?」


「うん。大丈夫だよ。逆にお父さんの専門だったから。もしよかったら、診療棟で聞こうか?」


 患者のカルテ情報は重大な個人情報にあたる。凪紗が聞かれたくないと思ったことを話すのであれば、場所を変えたほうがいいと考えたから。


「ううん。せっかくの機会だし、逆にみんなに知っておいてもらったほうがいいと思う。詳しい経過観察は美桜ちゃんにこれからはお任せしようと思うんだ」


 さっきまでの賑やかな空気がすっかり静まってしまったのを申し訳無さそうに小声で謝ると、凪紗はこう続けた。


「あのね、本当はこうして今みたいに歩いたり、立ったりすることもできなかったかも知れなかったんだ……。それを助けてくれたのは、執刀してくれた小島先生。そう……、美桜ちゃんのお父さんだったんだよ」


 残りのメンバーは凪紗と美桜を交互に見ることしかできなかった。

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