epilogue 想いを伝える明日へ

第170話 いつか、あなたと会える日を



 こんにちは。渚珠です。


 わたしたちのお話にご一緒してくださり、ありがとうございました。



 その後のみんなのご報告をしますね。


 最初は皆さんが気にしてくださっている奏空ちゃんからにしましょうか。


 奏空ちゃんは、ALICEポートの準備が全て整ったあれから3ヶ月後、18歳のお誕生日に、笑顔と涙でいっぱいの素敵な結婚式を挙げました。今もお二人とも変わらずお仕事を続けています。午前の便で毎日そっとお弁当を手渡す照れ顔の奏空ちゃんが微笑ましいです。


 その勢いに続けとばかりに、弥咲ちゃんは第4ハブポートの星間連絡船部にお勤めで主任整備士の浩之ひろゆきさんと。凪紗ちゃんは彼女が腰の怪我をした時にリハビリを一緒に経験し、今は理学療法士の歩夢あゆむさんと相次いで婚約を発表しました。歩夢さんは美桜ちゃんの診療所でお仕事を続けてくださることになり、男性の制服を追加で作りましたよ。


 あの二人らしい、立て続けの結婚式に、美桜ちゃんとわたしで「ご祝儀貧乏になっちゃうね」と笑っていましたっけ。


 そんな美桜ちゃんも来月には第4ハブポートの旅行者診療所にお勤めのお医者様、柊也しゅうやさんとのおめでたいお話が決まっています。お二人はマールスの美桜ちゃんのご両親のところまでご挨拶に行って来られたんですよ。


 奏空ちゃんは隆太さん、弥咲ちゃんは浩之さん、美桜ちゃんは柊也さんをお見送りしてから、毎朝事務所棟に揃って出勤してきます。


 出勤時間が違うのは凪紗ちゃんのところ。診療所は9時からなので、歩夢さんが朝の家事を終わらせてから出勤してきます。凪紗ちゃんは始業前点検があるので朝が早いですから。一人では寂しいだろうと、わたしたち四人が交代で同行します。凪紗ちゃんは強がりますけどね。


 CAROLポートのみんなは、元々男女比率が同じ。あれだけの訓練を一緒に乗り越えて、お互いに惹かれ合ったみたいで、三ペアとも秒読みだとか。


 桃香ちゃんは無事に一等航行士の資格も取れて、今では約束どおり、一緒に難しいお仕事を協力してお受けしています。あの島は赤道に近いので、デブリの落下も多く、その迎撃手としての腕はアクアリアでも五本の指に入るほどになりました。そんな桃香ちゃんも、もうすぐウエディングドレスを着ます。



 えっ、わたしですか?


 覚えていますか? 中学の卒業式の時に、わたしに誰か気になるお相手がいるのかを聞いてきた男の子がいたことを。水端みずはし直輝なおきさんと言います。とても真摯な方だと改めて知り、学校を卒業してからも時々個人的に連絡を取っていました。


 桃香ちゃんに後から聞きました。インターンから故郷を離れたわたしの事をずっと気にかけてくれていたそうです。今のお仕事はアルテミスの補給ポートでチーフマネージャーをしています。


 何度もお会いしては、昔からの話題に花を咲かせたり、最後は奏空ちゃんと同じように、わたしの境遇も全てお話ししてから、彼の正直な気持ちで決めてほしいと伝えました。半年前に「渚珠さんの隣を許してくれるなら、そこに行かせて欲しい」との真剣なお言葉をいただき、わたしは誠実な彼の気持ちを受け取ることに決めました。


 新しいお仕事はまずALICEポートの接遇アシスタントマネージャーとして。奏空ちゃんのお手伝いから入ってもらうことにしました。来週にはお仕事の引き継ぎも終えて、こちらに引越しをしてきます。入籍の段取りはこれからです。


 「本当にあのALICEポートで働いていいの?」って恐る恐る聞かれたので、「男性にいてほしいお仕事はたくさんあるんだよ」と答えました。


 タイミング的にちょうど良かったのかもしれません。先週、奏空ちゃんのお腹の中に新しい命が宿っていることが分かったんです。体調を優先して元気な赤ちゃんを産める環境のためには、接客担当がもう一人いてくれた方がいいですもんね。




 200年前に「ALICEポート」が誕生して、わたしたちが時を超えて受け継いで、そしてこれからも……。


 まず最初はそれぞれのパートナーを迎えた人数になり、その先は子どもたちも増えて賑やかになっていくのでしょうね。



 みんな、寂しさや不安を抱えながら、心細い時間を全員訳ありの五人で支え合ってきました。


 その五人が人生のパートナーを選んだ今でも、当時の記憶は忘れられない宝物です。それは紛れもない事実ですし、次の世代にも必ず想いを伝えていくことをお約束します。



 どうぞ、嬉しい時、心が荒んでしまった時、誰かに話を聞いてほしくなった時、海岸の砂浜で遊びたくなった時、星空が見上げたくなった時……、いつでもわたしたちのALICEポートにいらしてください。


 わたしたち全員でお出迎えさせていただきます。


 またいつか、あなたにお会いできることを楽しみに、これからの毎日を過ごしていきたいと思います。それまでどうぞ、お元気で……。


 宇宙に浮かぶ小さなアクアリアの、とても小さなALICEポートから感謝を込めて。


西暦2355年 松木渚珠より

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SYLPH THE ETERNAL ~想いを伝える明日へ~ 小林汐希 @aqua_station

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ