第6話 自分で掴んだ制服
「ふぅぅ。気持ち良かったぁ」
ロング丈のTシャツで浴室から出てきた渚珠。
自分の部屋だと案内された個室に戻ると、白い壁にベージュ色のカーペット敷きで落ち着いた部屋の中には、先に送ってあった荷物と持参したキャリーケースの他に、さっきは無かったもうひとつの箱がベッドの上に置かれていた。
「なんだろぉ……」
そっと蓋を持ち上げてみると、中に入っていたのは、
「制服だぁ……」
アクアリアへの赴任が決まり、移民管理局で採寸をしたとき、夏冬の衣替えだけでなく、正装から普段使いまでそのバリエーションの多さに驚き一目で虜になった。
『着替え終わったら、お昼なので食堂までお願いします』
一番上に置いてあるメモ紙は、恐らくさっき一番最初に見て、なおかつ一緒に海に落ちてしまった彼女からだろうか。可愛らしい文字を見て直感でそう思った。
ウェーブのかかった髪を再び左右両側で結わえ、箱から真新しい服を取り出した。
「本物だぁ……」
先日まで渚珠が着ていた学校用の平凡なブレザーではない。
何よりこれは渚珠が自分の努力で手に入れたものでもある。
それまで
それらの伝統を踏襲しつつ、スタンドカラーにパフスリーブの白いブラウス。白地にチャコールブラウンのラインが入った特徴のあるセーラー襟は別留め。そこに同じ色で前開きのベストが上半身。下はボックスプリーツの膝下丈のスカートが標準で用意されている他に、普段使いは自分の好きなデザインをセットアップすることが出来る。またそれが各自のアクセントになっているとのこと。
さっき、自分のもとに駆けつけてくれた三人は確かにそれぞれスカートやスラックスなどデザインが違っていて、各自の雰囲気を主張しているようだった。
「前の制服と同じ感じでいいかぁ」
渚珠はしばらく考えた結果、ミニのフレアスカートを選んでいた。
膝上3センチ丈は渚珠が学校にいた頃からの制服用スカート丈だ。そこに持ってきてあった膝までのニーソックスをはいてみる。
「とりあえずこんなもんかなぁ」
自分なりに納得して、渚珠は部屋を出る。
ここに連れてこられたときは、ただひたすら案内されるに任せていたけれど、今度は幾分見回す余裕があった。
連れてこられるときに簡単に案内されたところによると、外見がレンガ造りになっている建物の大部分はここALICEポートの従業員の住居部分になっているらしい。その一部はそのまま客間と食堂に連絡されているようだ。
今日は天気も申し分ないので、廊下や各部屋の窓は大きく開けられていて、明るい日差しと心地よい風が渚珠を包み込む。
「いいなぁ~。これなら何年でもいたくなっちゃうよぉ」
教えられたとおり、廊下の先には、『ここから先はお客さまが入れるエリアです』のプレートがかかっている扉があった。そこから先が食堂になっているはずだ。
他にお客さまはいないと聞いていたけれど、そのドアをそーっと開ける。
『パーン! パンパンッ!!』
「ふえぇっ」
突然響いた破裂音に思い切りビクつく。
「所長さんいらっしゃ~い!」
そんな渚珠を明るい声で出迎えたのは、それぞれの手にクラッカーを持って笑っている、
「あのぉ……?」
聞いていた話では、歓迎会は今夜の予定だったはず。
「あー、気にしない気にしない。ちゃんと夜の準備はしてあるから。ね、奏空ちゃん?」
さきほど、渚珠と奏空を海に落とす原因となる大波を起こした張本人である弥咲が胸を張る。
「うん。だからお昼は簡単なものでごめんなさいね。夜はちゃんと用意しますから」
「そ、そんなことしなくていいよぉ」
そもそも自分を主役に盛大なパーティーを開かれるのはどちらかといえば苦手な渚珠。
ここに決まったとき、従業員数が他と比べても一番少ないということを知ってほっとしたくらいだ。
「奏空ちゃん、まだ少し固いわね……。せっかくみんな同い年なんだから、もっと気楽に行きましょうよ。えーと、松木さんだっけ。渚珠ちゃんでいい?」
「弥咲ぃ? いくらなんでもいきなりそれは……? 訓練中でも所長さんよ?」
「いいですよぉ。気軽に渚珠で呼んでくださいぃ」
メンバーの中で一番しっかりしていそうな凪紗と呼ばれていた彼女にも笑顔で返す。
「それじゃ決まりね。じゃぁもう一度。渚珠ちゃん、ALICEポートへようこそ!」
三人はもう一度声を揃えた。
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