第10話

「させるわけなかろう!」


 長方形の紙が三枚、飛んできた。紙は凛々花に巻き付く触手に張り付くと、発火した。


「…チッ、祓われた鬼の分際で」

「ははは。晴明に勝てなかった怨念の分際で鬼を嘲笑うとは、滑稽な」


 鼻で笑いながら、煽るように言う。保也は商品棚の上を器用に伝って凛々花と道満の間に舞い降りた。


「お得意の未来予知は機能しなかったのか?」

「何を言う。機能したからここに来たのだろう」


 ころんとぽっくり下駄を鳴らす。


「引いてもらおうか。今の汝じゃあ吾には敵わんだろう」

「言われなくても。でもその子は諦めないよ。覚えておくといい」


 道満は保也の背後にいる凛々花に目を向けた。


「じゃあね、お姉さん。次会うときは完全に乗っ取ってあげる」


 ふっと、道満の姿が消える。同時に、バックヤードから店員が出てきた。店員は驚いたように二人を見つめると、慌てて「いらっしゃいませ!」と挨拶した。


「ふん。人避けの結界か…。さて、遅くなってすまなかったな。無事かえ?」

「…だい、じょうぶ、です」

「大丈夫そうには見えないなあ。もっと早く予知できてればこんなことにはならなかった。本当にすまない」


 赤く跡がついた足を撫でながら、凛々花は立ち上がった。落としてしまったシュークリームを拾って、カゴの中に入れる。


「買って、戻ろうか。明近に報告しなければ」


 保也がカゴを奪って歩き始める。凛々花もゆっくりとその後を追った。


「追加で買うものはあるかえ? お昼とか、一緒に買ってあげよう」

「あ、じゃあサンドウィッチで」

「入れていいよ。あ、いちごのフルーツサンドある! 吾のお昼、それにしよ〜!」


 保也がニコニコしながらフルーツサンドを手に取る。カゴの中の半分が甘いものになった。凛々花は「甘いものばっかりだな」と思いながら、てりたまのサンドウィッチを入れさせてもらった。

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