第4話

「お。保也か」


 女性のような高い声が保也を呼ぶ。保也はその人に飛びついた。その人のことを「晴明」と呼んで。


「晴明! 三日ぶりかえ? 元気そうじゃないか〜!」

「ははは。ちょっと離れてくれるか、重い」

「そんなこと言わないでおくれ! 三日ぶりの逢瀬じゃないか!」

「逢瀬じゃない」


 ギリギリと保也の頭を掴む晴明は、凛々花の姿を見とめて表情を崩した。


「なるほど。新しい霊力を感じると思って来てみたが、君のものか」

「あっ、安倍凛々花です!」


 自然と背筋が伸びる。それほど、晴明の発する雰囲気にはプレッシャーがあった。


「そう怖がらないでほしい。おれは陰陽寮でしか生きれない、もう出涸らしみたいな存在だからさ」

「そう謙遜することはないぞ〜! 晴明は今も昔も吾の惚れた姿そのままだ」

「凛々花ちゃんって言ったっけ。こいつこれから君の上司になるんだけど大丈夫? 引いてない?」


 細身の晴明にべったりとしがみつく少女の姿に、凛々花は目を逸らした。先ほどまではいろいろ教えてくれる上司だと思っていたが、前言撤回。鬼と言っていたから人とは感性が違うのかもしれない。


「ほらちゃんとしろよ君。凛々花ちゃん引いてるぞ」

「諦めておくれ、これが吾だ」

「開き直るな。ちゃんとしろ」


 ペしんと保也が頭を叩かれる。ぶすくれながら晴明から離れた。


「ああそうだ晴明。この子の霊力、見てやってくれるかえ?」


 金色がかった晴明の瞳が、凛々花に向けられる。プレッシャーが、真っ直ぐ彼女に向けられる。

 首筋に汗が伝った。喉が乾く。金色から目を逸らさないように、生唾を飲み込んで見つめ返した。


「…うん。人並みかそれ以上はあるな」

「ほお?」


 晴明の瞳からプレッシャーが消える。いつの間にか息を止めていたらしい。大きく息を吐いて、肩の力を抜いた。


「君、いい筋いくと思うよ」


 晴明に肩を叩かれる。そのままフラフラとどこかへ歩いていく晴明を見送っていると、保也に頬を突かれた。


「怖かったかえ?」

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