第32話
「ちょっとゆきちゃん」
「あ、なりちゃん! どうしたの?」
エレベーターが到着した。開いた箱の中を見ると、ぽっくり下駄を鳴らした保也が降りてくる。
「どうしたのじゃない。りんちゃんの帰りが遅いから見にきてみれば……。まさかずっと話してたのかえ?」
「うん! 凛々花ちゃん、すごく話が合う!」
「そうかいそうかい。じゃあそろそろ返してくれるね?」
「えー。まだ話したいぃ」
「仕事してくれる?」
「明近くん抱える天文部に言われたくないかも」
「ぐう」
「お、ぐうの音」
軽快なやり取りを見て時計を確認すると、もうすぐ終業の時刻だった。
「あっごめんなさい! 話しすぎちゃいました」
「まあ楽しかったならいいよ。さ、りんちゃん。帰って勤怠切ろっか」
凛々花が保也の方へ向かおう立ち上がると、その両足に扇と忠幸が絡みついた。
「えっ⁉︎」
「凛々花ちゃんは今日から暦部の子です!」
「陰陽系の知識ないんですよね? じゃあ天文部じゃなくてもいいと思うんですけど」
「扇ちゃんはともかく、ゆきちゃんはもう三十路だろう」
保也が肩を竦めると、忠幸が牙を剥いた。
「年齢出さないで! まだ二十代なの!」
「ババア」
「扇ちゃん今なんて言った⁉︎ 怒るよ⁉︎」
扇は鼻で笑いながら忠幸を馬鹿にするが、凛々花の足からは離れない。
「汝ら、恥ずかしくないのかえ?」
「凛々花ちゃんが暦部に来てくれれば毎日楽しいと思うの。そのためだったらあたし、恥なんてないわ」
「キメ顔で言うでない」
大きくため息をついた保也は、徐に、懐から紙を二枚取り出した。
「では、汝らに鬼の恐ろしさを、思い知らせてやろう」
凄惨に笑った保也を見て、扇と忠幸は顔を引き攣らせる。
「そっ、そこまでする?」
「なんとかしなさいよ忠幸くん」
「なりちゃんガチギレじゃん……アッちょっ待っうわーーーっ!」
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