第31話
「満義さんって、誰ですか……?」
凛々花の問いに答えたのは、力なく笑った忠幸。
「賀茂満義。元暦権博士で、……今はヤミ陰陽師。道満の手先」
「蘆屋道満の⁉︎」
「うん。……あたしが、引き留められなかったの」
ギュッと、忠幸はさくらんぼ色の唇を噛み締める。強く握られた手は、力を込めすぎて色をなくしていた。
「賀茂、って、ご兄弟とかですか……?」
「あ、ううん。あたしもミッツも賀茂の家系ではあるけど、親戚として名前がつくほどの近さじゃないんだ。遠い親戚」
元暦権博士というと、博士である忠幸の直属の部下にあたる。しかも、役職がある立場で、道満サイドのヤミ陰陽師に寝返るなんて。
「話によると、はりま蘆屋塚でも道満に近しい場所にいるらしいの」
だから道満と一緒に行動しているかと思った、と。
「私が遭った時は、蘆屋道満一人でした。周りに人もいなかったと思います」
「そっか……。うん。ありがとう」
忠幸はもう一度報告書に視線を落とす。
「呪詛、ね。身体も狙われてる……」
「はい。呪詛は、……陰陽助の方が返してくれたので、もう大丈夫です」
「そっか、よかった。今の道満の身体は子供ね……。ミッツじゃないってことがわかっただけ、行幸か」
トントンと報告書を揃えた忠幸は、それを大事に引き出しへとしまった。
「ありがとう。引とめちゃってごめんね」
「あ、全然大丈夫です! ……あの、差し支えなければ聞いてもいいですか?」
「うん? なあに?」
「重岡さん、香水つけてますか? すごくいい香りです!」
急に視線を向けられた扇がきょとんとする。
「私?」
「はい! あの、ここに入った時から、いい匂いだなって気になってて……!」
「ああ、これ最近出たやつなのよね」
「そうなんですか⁉︎ よかったら何使ってるのか教えてください! 私、服とかメイクとか大好きで……!」
「いいわよ。なんなら今度、アトマイザーにしていくつか持ってきましょうか?」
「いいんですか⁉︎」
「いいわよ。メイクも好きなのよね? 若いのにメイク上手だと思ってたのよ。私もお話ししたいと思ってたから」
「え、嬉しいです!」
テンションが上がり始めた凛々花と、優しくそれを見つめる扇を交互に見比べた忠幸は、ぷくっと頬を膨らませた。
「ねえあたしも混ぜて!」
「忠幸くんはいいわ」
「なんで! あたしもメイクとか服のお話ししたいー!」
「いらない。私は凛々花ちゃんと話したい」
「ヤダーッ! あたしも仲間に入れて!」
忠幸がジタバタ暴れ始める。扇はそれを軽蔑の眼差しで睨みつけた。
「あ、忠幸さんの服もすごく綺麗ですよね! レース模様ですか?」
凛々花が尋ねると、ピタッと暴れるのを辞める忠幸。そしてパッと顔を輝かせた。
「そう! これお気に入りなの〜! 遠目から見ると普通のワンピースなんだけどね、近くで見るとレースの模様が可愛いんだ!」
「ピンクも、濃くなく薄くなくちょうどいい色味ですね!」
「え、わかる⁉︎ この色いいよね⁉︎」
「めちゃくちゃいいです! 靴は何を合わせてるんですか?」
「白いパンプス! 他の合わせ方があんまりわかんなくて」
「同じ白のスニーカーとかどうですか? ちょっとスポーティーでカジュアルになると思います!」
「え、天才?」
話が盛り上がり、三人は時間を忘れて女子トークに花を咲かせた。
一人男子だけれど。
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