第63話
歳を取らなくなった、と聞いて、凛々花は晴明を思い浮かべた。
「……晴明、様、も人魚の肉を食べたの?」
視線が集まる。
凛々花の疑問に答えたのは、累だった。
「晴明様は、人魚の肉を食べてないよ」
人魚の肉を食べてはいない。晴明は、別の方法で今を生きている。
累が窓の外に視線を投げた。
「晴明様は、陰陽寮の中でしか生きられないの。地脈から霊力を吸って生きてるから。本当は、もうとっくに寿命を迎えてるんだよ」
「……晴明様がずっと地下にいるのって、そういうこと?」
「そう。陰陽寮を歩き回るくらいならできるみたいだけど、外には出られないんだって」
凛々花は教科書に視線を落とした。
奈那子が頬杖をついて、唇の上にペンを乗せる。
「そのおかげで、っていう言い方はおかしいけど、陰陽寮にはりま蘆屋塚のヤミ陰陽師がこないのは、晴明様がいてくれてるから何だよね〜」
「結界も晴明様の術だしね」
同意する涼香に、凛々花が目を丸くする。
「あの、景色が変わるやつ?」
「そうだよ。陰陽寮は公的機関だけど、その役割を知るのは神社庁と政府だけだから。あんな大きい建物があったら、みんな何か気になっちゃうでしょ?」
確かに、と思う。でも外から見た古風な建物も気になってしまうんじゃないかな、とも思う。
「認識阻害の効果も付与されてるって聞いたことあるよ」
「そんなこと絶対できなーい」
「なこちゃんには無理でしょ」
「何をぅ」
涼香に喧嘩腰になる奈那子。
それまで黙っていた雅が、ポツリと言葉をこぼした。
「蘆屋道満って、どんなやつなんだろ」
「子どもの身体を乗っ取ってる、極悪非道なやつ」
「えっなんでそんなこと知ってるの……⁉︎ あったことあるの⁉︎」
ぎょっと目を剥く陰陽師たちに、凛々花はしまったという顔をする。もしかしてこれは、言ってはいけないことだったか。
「じゃあ、凛々花ちゃんが狙われてるっていう噂、本当だったんだ」
累の声に、驚きが滲む。凛々花は曖昧に頷いた。
「前回も、今回も、偶然じゃないの?」
「私が狙われてるみたいで……」
「でも凛々花ちゃん、陰陽道のことに関しては何も知らないんだよね?」
「右も左も上も下もわからないですね……」
「知識がないから逆にいいってこと?」
奈那子が無表情のまま首を傾げる。理由なんてそんなの、凛々花が一番聞きたかった。
話が勉強からずれて来ていることに気づいた累がトントンと机を叩く。
「そろそろ勉強再開しよう……?」
「さねちゃんがそう言うなら!」
「ひい」
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