第8話

「お使い…」


 お使いと聞いて、別部署に伺うのかと思ったが違った。凛々花の手には、買ってきて欲しいものが書かれたメモが握られている。

 保也の「ちょっとしたお願い」とは、近くのコンビニでお菓子を買ってきてほしいとのことだった。


「チョコレート系、うす塩ポテチ、まんまるカステラ、プチシュークリーム…」


 特にポテチの後ろには(絶対うす塩!)と書かれている。代金に関しては、保也が多めにくれた。お釣りで好きなものを買ってきていいらしい。


 結界を出て一番近くのコンビニに入ると、店内は昼時だというのに誰もいないようだった。店員もバックヤードにいるのかカウンターにも人はいない。


「ええと、シュークリームシュークリーム」


 ガサガサとカゴに商品を詰めていく。

 ふと、隣に小柄な影が並んだ。

 ちらりと横を見ると少年が陳列棚を見上げている。この時間帯に、と不思議に思ったが、ジロジロ見るのも失礼なので目を逸らした。


「お姉さん、それお昼?」

「え?」


 振り返ると少年がカゴの中身を覗き込んでいた。


「ちゃんとご飯食べないとダメだよ」


 上目遣いに凛々花を見つめて微笑む少年。色素の薄い瞳が印象的だ。よく見ると、左耳に網掛け状のピアスが揺れていた。


「ああ、これは私のご飯じゃないの上司のお使いだよ」

「あ、今流行りのぱわはらってやつでしょ!」

「違うかなあ…」


 キラキラした顔に苦笑いで返す。少年は首を傾げた。


「ぱわはらじゃないの? お仕事変えた方がいいよ」

「あはは…」


 無垢な少年相手に「辞められるものなら辞めたい」など言えるはずがない。


「辞めちゃいなよ、陰陽寮なんかさ」


 誤魔化すように手に取ったシュークリームを落とす。


 なんで彼は、仕事場が陰陽寮だと知っている?

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