第9話
「そんな怖い顔しないでよ、お姉さん」
にこりと少年は笑う。相変わらず店内に人の気配はなく、凛々花と少年の二人しかいない。
「…あんた、誰?」
「あれ、知らないんだ? 陰陽寮の人間なら知ってると思ったのに」
一歩後退する。
「ああいいよ、知らなくても。本題はそっちじゃない。私は君をスカウトしに来たんだ」
コツンと踵が何かに当たった。
少年は微笑んでいる。しかし何か、少年が発するには恐ろしすぎる圧を発していた。
「率直に言おう。君、陰陽寮を辞めて私のところに来ないか?」
「あんたが何者かわからないのに了承するはずがないでしょ」
「ふむ。今年の新人はなかなかにガードが堅いな」
凛々花が睨みつけるが、少年はどこ吹く風。気にした風はない。
持っていたカゴを置いた。保也には悪いが、お使いをしている場合じゃない。
「だが、君は手駒に欲しい」
突然、足元から触手状のものが這い上がってきた。黒いそれは、逃げようとする足をギリギリと締め上げる。
「君、この程度も解呪できないのか? 霊力の割に弱いんだな」
「うるっさ…! こっちは得業生になりたくてなったわけじゃないってのに!」
「なるほどな。ますます都合がいい」
天使のような微笑みとは真逆に、気配には悪意が滲んでいる。触手に拘束され逃げられない凛々花は歯噛みする。
「よし。君に乗り換えよう。この体もよかったが、君の方が霊力は多い」
少年の手が、凛々花の顔に翳される。彼女を拘束していた触手が禍々しく揺らめき始めた。
「最期に、無知な君に教えてあげよう」
全身を包むように這い上がってくる触手に嫌悪を感じながら、少年を睨みつける。
「私の名は、蘆屋道満。陰陽寮を、安倍晴明を、全てを破壊する者だ」
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