第26話
凛々花が温くなった湯の中で、シャツを擦り合わせる。
「うーん、こんなもんですかね」
「だいぶ落ちたね。りんちゃんすごい!」
まだついたばかりだったからなのか、すぐに薄くなった色にほっと息をついた。
シャツを絞って、明近のロッカーにあったハンガーにかける。
「一回洗濯機にかけた方がいいですよ。その後乾かして、ちゃんとアイロンしてくださいね」
「うーん、凛々花ちゃんやって」
「自分でやってください」
「今日、ナンパしようと思ってたから寮に帰らない予定だったんだけどなー」
「帰ってください」
「いいね、まっすぐ自分の意見を言えるのはいいことだよ!」
明近がサムズアップする。凛々花はもう何を言っていいのかわからなくて保也に助けを求めた。
「明近のクズは治らないから、無視するかシカトするといいよ」
「保也ー? 一応俺上司ねー?」
「ははは、関係ない関係ない」
「いやあるからァ! 凛々花ちゃん俺のこと無視しないでね、泣いちゃうからね」
「勝手に泣いてればいいんじゃないかえ?」
「保也! 減給するぞ!」
明近が腰に手を当ててぷんすこ怒る。しかし保也はどこ吹く風。減給も特に響いていないようだった。
「あ、あの、仕事しなくていいんですか……?」
「凛々花ちゃん真面目ー」
「このまま明近が気づかなければ、明近に責任擦りつけてサボれたのになぁ」
「凛々花ちゃん教えてくれてありがとう! 俺が怒られるところだった!」
明近が青い顔をして凛々花の手を握る。保也は即座にそれを離させると、明近から距離を取らせた。
「さあさありんちゃん。とりあえず吾の仕事を見学しようか」
「保也が冷たい……」
明近を無視した保也は自分の前の席に凛々花を座らせる。
「天文部の大きな仕事は、星見だ」
星見とは、星を見てこの国の吉凶を占うもの。皇族や政治家の行事の日を選定することもあり、星見に基づいた陰陽寮の年間スケジュールを暦部と一緒に制定する。
「まあ、今は年度始めだから年間スケジュールはできてるし、緊急の日付選定も滅多にないからね」
「普段はどんなことをするんですか?」
「普段は星を見て、天文の現象に異常がないかを確認するよ。星見は夜にしかできないから、夜勤の人が見た記録を吾等が精査する。緊急事態の時は夜勤の天文部と陰陽師が出て、対処にあたるよ」
保也が文机に置かれていたタブレットを起動した。画面を向けられると、そこには金平糖のような星々が映されている。
「今はこうやって、屋上で常に録画しているから、ずっと外に出て空を見上げる必要はないから安心すると良い」
「こんなに綺麗に撮れるんですね」
「特殊なカメラだからね。星が見えないとお話にならんのよ、吾等の仕事は」
保也が凛々花にタブレットを渡した。そして、ぐっとサムズアップする。
「勉強が進んだら、これりんちゃん中心にやってもらうからよろしく!」
ぎゅっと凛々花の顔が歪む。自分にできる気がしない。そもそも、どの星が何の星で、異常が何かなんてわからない。
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