第6話

 

 結界内の中心にある一番高いビルの四階、天文部と案内されたフロア。入った瞬間、凛々花は自分のイメージとの高低差に目を剥いた。


 近未来的な外観、ガラス張りの一階ロビーからは想像もつかないほどの『和』。エレベーターを降りた瞬間視界に広がったのは一面の畳だった。


「た…畳」

「語彙力が低下しているなあ。まあ無理もない、みんな慣れるまではそうだ」


 保也はぽっくり下駄を脱いで下駄箱に入れ、畳の上をスリスリ進んでいく。凛々花も慌てて後を追った。

 広い部屋に対して、その中にいる人は少ない。保也はその一番奥、文机の裏に寝っ転がっている男の元へと真っ直ぐ向かった。


「おおい天文博士殿。得業生の子を連れてきたぞ」


 天文博士と呼ばれた男は、起き上がる気配がない。ため息をついた保也は、近くにあった封筒でペシペシと彼の頭を叩いた。


「明近。おい明近。寝ているのかえ? 起きろ、まだ仕事中だろう」

「ううん…? うるさいなあ。保也?」

「そうだ。得業生の子を連れてきた。挨拶せい」

「女の子…」

「起きろ阿呆。いつまでも寝ぼけているんじゃない」


 彼がハッとした瞳で凛々花を見つめた瞬間、保也が持っていた封筒の角が頭に刺さる。凛々花はうわ、と痛みを想像して顔を引き攣らせた。


「あ、安倍凛々花です…」

「…ふむ。かわいいな」

「え?」


 寝転がっていた彼が、がばり勢いよくと起き上がった。


「俺は安倍明近あべあきちか。天文博士だよ。ところで君、彼氏とかいる?」

「やめろ。汝の部下になる子だぞ」

「え〜?」


 明近はケラケラと笑いながら、文机に頬杖をつく。必然的に上目遣いで凛々花を見上げた。

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