第17話
「別にいーし。俺あいつのこと好きじゃないから!」
「へー? そんなこと言って、今年のバレンタイン貰えなくて泣いてたのに?」
「泣いてねーよ! 芳兄うるさい!」
芳昌を叩こうとすると、ひらりと躱される。
凛々花はホットミルクを冷ましながら、小声で隣の保也に問いかける。
「良平…くん? は婚約者がいるんですか?」
「うん。陰陽界とは全く関係ない子らしいけどね、幼馴染なんだって」
「…もしかして、すごいお家柄だったりします?」
「安倍の本家だよ」
凛々花はぼうっと良平を見る。凛々花の家は安倍晴明から見たら分家の分家なので、婚約者という概念はない。本家の話を聞くこともあったが、遠い家の話だとスルーしていた。
「力が強いとね、それだけめんどくさいことも抱えなきゃいけないのよ」
赤い目を爛々とさせて呪詛返しを行った良平がフラッシュバックする。
「…私も、強くなれますか?」
「…うん。りんちゃんなら強くなれるよ」
凛々花に視線を合わせてきた保也がにんまりと笑う。
「ちゃんと勉強したらね」
「ぐぬ…」
凛々花が顔を歪めた。幼い頃に勉強を放り投げた自覚は大変にあるのだ。天文学の勉強は嫌いだ。今でも苦手意識がある。
「勉強は嫌いか?」
「嫌い…というか、天文に関わることに苦手意識があって…」
思い出されるのは椅子に縛り付けられて夜空を見させられた幼い時の記憶。元天文博士の父が横で星を指差しながら何か説明していたが、中身はほぼ覚えていない。話を聞いているふりをして服のデザインを考えていたのはずっとだった。それがバレて母に怒られて、天文学が嫌いになった。
無意識に苦い顔をしていたのだろうか、泰は小さく失笑した。
「芳昌も勉強苦手だったよな?」
「僕は元ができたから。苦手だったんじゃなくて、必要なかったんだよ」
「違う、学校の勉強の方だよ」
「あ、そっちは無理〜。まあ僕、天文学だけできれば良かったからさ」
「何度私が放課後補習したか…」
大きくため息を吐いた泰がポンと手を打つ。
「芳昌が教えてやるのはどうだ?」
「えー。じゃあ僕が凛々花ちゃんに天文学教えたら、泰何してくれる?」
きょとんと目を丸くする。ニコニコと頬杖をついた芳昌は、もう一度繰り返した。
「泰、何してくれる?」
どろりと何かを煮詰めたような瞳に、凛々花は身震いした。それを向けられている泰は、相変わらず首を傾げている。
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