第16話

「な、泣き止めよ、ぼくが泣かしたって怒られるだろ!」

「まあ事実泣かせたのは良平だけどなあ」

「違うじゃん! ぼくじゃなくて道満が悪いんじゃん!」


 くすくす笑う保也に、顔を真っ赤にして怒る。歪んだ視界で呆然とそれを眺めていると、ガンッと勢いよく襖が開いた。


「芳昌、足で開けるな」

「しょーがないじゃん両手塞がってるんだからさあ」


 湯気のたつマグカップを持ってきた泰と芳昌は、泣いている凛々花を見て固まった。


「…良平」

「違う! ぼくじゃないって!」

「大丈夫〜? ごめんね僕の弟が」

「芳兄! ぼくが泣かしたんじゃないって!」


 慌てて弁明する良平をジト目で見つめる二人。


「おいお前もなんとか言えよ! ぼくが怒られるだろ!」

「まあまあ落ち着きたまえよ、良平。りんちゃんもそろそろ泣き止み。陰陽頭と陰陽博士が淹れてくれたホットミルク飲も?」


 凛々花が顔を上げると、泰が持っていたマグカップを渡してくれた。お礼を言いながら受け取り、中を覗き込む。中身は湯気が立つホットミルクだった。


「あ、ありがとうございます…」

「いえいえ。良平がなんか言った?」

「あ、いえ、ちょっと今更怖くなって泣いてただけなんで、本当に気にしないでください」

「そっか。怖いよな、やっぱり」


 泰はにっこり笑ってそう言うと、マグカップに口をつけた。


「すぐ女の子泣かしてると、悠ちゃんに嫌われるよ〜?」

「うぐ」

「婚約破棄も遠くないかも」

「う…」


 唇を噛んで目に涙も浮かぶ。しかしすぐにつんとそっぽを向いた。

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