第18話

「ふむ…。芳昌は何が欲しい?」

「え?」


 予想外の返しだったのか、今度は芳昌がきょとんとした。良平は間から二人の顔を見比べている。


「な…なんでもいいの?」

「ああ。私にできることなら」


 ドロドロの瞳は鳴りを潜め、今度はぽぽぽと頬が赤くなる。

 あ。と、凛々花は気づいて保也の方を見る。目があって数秒、保也は一つ頷いてからパチンとウインクした。


「触れぬが吉だよ」

「人の恋路を邪魔する奴はなんとやらっていいますもんね…」

「保也、凛々花ちゃん、黙って」

「芳兄、コイジって何?」

「良平も黙れ。誰も喋るな」


 真っ赤な顔でこほんと咳払い一つ。


「まあ現実的な話、僕には難しいね。陰陽博士の仕事あるし、道満が動き出してるなら、僕と泰で動かなきゃでしょ?」

「まあ、そうなんだよな…」


 苦笑いした泰が、こめかみを掻く。

 自分で学んでいかなきゃか、と凛々花が覚悟した時、良平がポツリと言った。


「陰陽師のところに、星見得意な奴いなかった?」


 泰と芳昌の視線が良平に向く。


「えー? そうだっけ…?」

「ああ、津森くんか? ほら、出月のところの」


 出月、という名前が出た瞬間、安倍兄弟の顔が歪んだ。


「げ、出月? やめた方がいいよー、あいつ」

「そ〜だそ〜だ」

「二人とも、そう言うな。あと星見が得意なのは出月じゃない、津森くん」


 ぽこんぽこんと頭を叩かれて静かになる二人。


「ええと、津森さん…? って誰ですか?」

「津森雅くん。うちの陰陽師の子だよ。芳昌の部下になるな」

「陰陽師…」


 そういえば、芳昌が陰陽博士なのだから、天文の部署のような陰陽の部署があってもおかしくない。


「陰陽師は主に現場で動く者たちが多いな。芳昌も、昔はエースの陰陽師だったんだ」

「呪詛は良平の方がすごいけどね。俺もそこそこやった方だよ」


 良平がふんぞりかえる。道満の呪詛を軽々返した時からすごいとは思っていたが、そんなにすごいのか。


「芳昌から津森くんに言ってやってくれないか」

「い〜よ」


 芳昌が快諾したのを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす凛々花。一人で学ぶには、苦手意識が強すぎる。誰かが監視して、たまに教えてくれたりしたら一番やりやすい。


「すみません、私からもお願いします」

「吾からも。なんなら天文部の部屋使っていいからさ」


 芳昌が凛々花と保也を見る。そして苦笑いした。


「まあ、あんまり期待しない方がいいよ」

「え?」

「津森くん、なかなか難ありな子だから」

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