第19話

 芳昌が津森雅にアポイントをとってくれると言うので、それまで天文部の部屋で連絡を待つことになった凛々花と保也。

 部屋に戻ると、明近も戻っていた。


「お、帰ってたのかえ」

「うん。振られたからね」

「今回はなんて言って振られたの?」

「なんか弟と間違われたみたい」

「うーん最短記録更新しそうね」

「残念。今回は三時間は付き合ってたから、最短記録は更新されなかったよ」


 保也が苦笑いする。凛々花は顔を引き攣らせた。


「さ、最短はどのくらいなんですか…?」

「一時間」

「いちじかん」

「前の女が凸してきた時ね〜」


 ヘラヘラと笑っているが、そんな状況ではないだろう。凛々花が頭を抱えたくなった。


「ん? 靖近と何かあったのかえ?」

「この間靖近が振った相手だったみたいよ」

「あー」


 保也が苦虫を潰したような顔をする。

 凛々花は聞き覚えのない名前に首を傾げた。


「やすちかさん…? は、天文部の方ですか?」

「いや、違うよ」


 その声は明近のものと似ていた。が、喋ったのは明近ではない。

 声は後ろの入り口の方からした。振り返るとそこには、明近と瓜二つの男性が立っている。


「俺は安倍靖近。現陰陽権博士で、明近兄さんの双子の弟だ」


 明近と違って無表情の彼は、凛々花の隣にいる保也を見るや否や顔を歪めた。


「お前、まだ天文権博士の地位にしがみついてんの? そろそろ退いてくれない?」


 吐き捨てるように言う靖近に、保也は苦笑いした。


「そう言われてもなあ、タイミングが悪かったとしか言えんからなあ」

「祓われた鬼の残穢如きが、兄さんの下につくなんて烏滸がましい」

「残穢だなんて、人聞きの悪い。吾はれっきとした晴明の命によって、天文権博士になった鬼よ」


 少しの挑発に、靖近は顔を歪める。保也は袖で口元を抑えながらころころ笑った。そのやりとりを見つめていた凛々花は、不意に隣に並んできた明近を見上げた。


「可愛い弟だろう」

「可愛い…?」


 可愛いと言えるのだろうか、あれは。

 今度は見た目のことでやいのやいの言っている靖近を笑顔であしらう保也。年の功と言うやつか、靖近の放つ暴言はほとんど効いていない。

 明近は仕方ないなと言うふうに息をついて、靖近を呼んだ。


「靖近」

「はい、なんですか兄さん」


 即座に明近の前に馳せ参じた靖近。ぎょっとする凛々花など意に介さず、まっすぐ明近を見つめている。


「あんまり保也をいじめてやるな」

「……………………………………はい」


 だいぶ考えたな。


「で? なんの用があったんだ」

「あ、そうでした」

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