第20話
明近が独占していた靖近の瞳が、凛々花に向けられた。
「津森陰陽師へのアポが取れたと、陰陽博士が」
「ほ、本当ですか」
「ああ。でも、お前一人で行くようにと」
ぱちくりと瞬きする。てっきり、また保也についていくものだと思っていた。
「吾は?」
「事情聴取だ。道満に遭ったんだろう? 詳しい話を聞くのと今後の対応について話しあうそうだ。兄さんも来てください」
凛々花が不安そうに保也を見る。それに気づいた保也は、ぽっくり下駄で精一杯背伸びをして、凛々花の頭を撫でた。
「汝なら大丈夫よ。ちゃんと誠意を持ってお願いすれば、津森だって受け入れてくれるはず。りんちゃんはいい子だからね」
「そーそー。凛々花ちゃんならだいじょーぶ。がんばれ!」
「陰陽師のフロアは二階だ。兄さんが応援してるんだからちゃんとやれよ」
とんと背中を押される。不安で振り返りたくなりながらも、天文部のフロアを出た。
「…」
広い陰陽寮の建物内で、初めて一人になった。まだ一日目と言うこともあるが、保也と出会ってからは一緒にいてくれたから、しばらくはそう言うもんなんだと思っていた。
エレベーターは止まることなく降りていく。心臓の音が大きくなるのを感じる。まずは何を言ったらいいのだろうか。挨拶が最初だよな、そのあとは? 津森は難ありだと言っていたから、第一印象はしっかりとしておきたい。つい先日まで高校生だった凛々花には、社会での礼儀というものはほとんどわからない。とりあえず大きな声で挨拶して、お礼をちゃんと言って…。
そんなことをぐるぐる考えているうちに、二階に着いた。
ドアが開いて広がる、一面の畳。天文のフロアと大して変わらないが、雰囲気はだいぶ違った。
天文部は一人一人文机のようなデスクがあったが、陰陽部にはそれがない。代わりに長いローテーブルが一つ置かれている。そのテーブルの上は乱雑なものだった。ハンドグリップが置かれていたり、お菓子が散らばっていたり。床にはクッションやら座布団が散らばっており、お世辞にも綺麗な部屋とは言い難い。
「弓庭っち俺にもお菓子ちょうだい!」
「嫌」
「こら奈那子。ちゃんと隼にも分けてあげなさい」
「隼、ぼ、僕のお菓子あげるから…」
「はあはあはあはあ…さねちゃん今日も可愛い…!」
「ひい…っ」
ローテーブルを囲むようにして、六人の男女が騒いでいた。
「お? どうしたー? 陰陽部に何か用事か?」
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