第21話

 その中で一際筋肉質な角刈りの男が凛々花に気づく。


「あ、えっと、天文部から来ました、得業生の安倍凛々花です!」

「ああ、雅のお客さんな。俺は菅原出月。一応、陰陽部のリーダーをさせてもらってる」


 出月の隣で、肩を震わせたのは長髪を一括りにしている根暗そうな男。


「ほら雅。挨拶しろ」

 出月に促され、男はおずおずと顔を上げる。

「津森雅、です…」

「ごめんなぁ、こいつちょっと人見知りなんだ! まあ慣れるまでに時間はかかると思うが、気長に待ってやってくれ!」

「きっ、気長に⁉︎ そ、そんなに長い期間になるの⁉︎」

「そりゃあ、一から教えるんじゃあそれなりに長い期間になる」


 雅はダラダラと汗を流しながら、凛々花から目を逸らした。

 出月は困ったように笑いながら、ちょいちょいと手招きをする。


「今、保也さんは事情聴取受けてるんだろう? ちょっとここで休んでいくといい。お菓子もたんまりあるしな」


 笑顔の出月に誘われるようにして、凛々花は空いている座布団に腰を下ろした。


「奈那子、お菓子こっちに」

「うん」


 奈那子と呼ばれた女性が、チョコ菓子を一つ、凛々花の前に置いた。


「こら。独り占めするんじゃない」

「だって出月にい、私、お腹すいた。妖退治頑張ったでしょ? いいでしょ?」

「確かに頑張っていたが、だからと言って菓子を独占していいわけじゃないだろ」

「むう」


 奈那子は頬を膨らませ、顔に「不本意」と書いたまま菓子の山を半分、テーブルの中央に寄せた。


「うん、えらいな。さあ、好きなものを食べるといい」


 出月が褒めると、奈那子はへにゃりとむくれた顔を蕩けさせた。


「弓庭っちずるい! 出月にい、俺も褒めて!」

「隼は今日も一撃撃って寝ただろ」

「一匹は仕留めたじゃん⁉︎」

「ははは」

「え笑って流そうとしてる⁉︎」


 隼が叫ぶと、陰陽師組の面々は堪えきれなくなったというように吹き出した。

 パチリ。口を押さえて小さく笑う雅と目が合う。


「…!」

「あ、あの」

「ひい」


 真っ青な顔をされた。

 挨拶をしようと思っただけなのに。


「つもりん、いつもこんな感じだから気にしない方がいーよ」


 ポテトチップスを食べながら、隼が頬杖をつく。


「ぼ、僕に先生は無理だよ…」

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