第56話

「え⁉︎ で、でも、保也さん、カウントしましたよね……? 視えてたんじゃないんですか⁉︎」

「あれは未来予知の応用だよ。触手が視えてたわけじゃない」


 凛々花はあんぐりと口を開けた。

 てっきり、保也には触手が視えているのかと思った。明近と靖近もだ。


「ていうか、未来予知って……?」

「吾は特別な鬼なんだよ! かつては吉凶を伝えてたから、神様扱いされてたんだけど……つまんなくなっちゃって人里で暴れてたら、晴明に祓われた」

「つまんなくなっちゃって……?」

「だって人間のお供物、お酒ばっかりなんだもん。吾は甘いものが好き。甘味所望」


 それだけの理由で……? と、凛々花はまた絶句する。しかし、当の保也は当時のことを全く悪びれていないのか、のほほんと笑っている。

 戻ってきた靖近から、ミルクが追加されたコーヒーを受け取った明近が、難しい顔をする。


「凛々花ちゃんにだけ視えてたのは気になるね。晴明様に診てもらう?」

「うんそうだねそうしよう! やったあ晴明に会える!」


 嬉々とした保也が凛々花の腕を掴んで立ち上がる。


「事情聴取が先じゃない?」

「そんなの後でいいのよ晴明が先!」

「よくないね。監督不行届で怒られるの俺なんだけど」

「明近が怒られて悲しくなるのと、吾が晴明にファンサをもらって嬉しくなるの、選ぶのは明白だろう」


 きょとんとした顔で首を傾げる保也に、明近は苦笑いした。


「おい兄さんを困らせるな殺すぞ」


 そんな保也に、靖近が拳を飛ばした。

 ひらりとそれを避ける保也。凛々花は自由になった腕をそっと下ろす。


「あーあーこれだからぶらこん? は」

「本当に殺す」

「やれるものならやってみるがいいよ。こっちは年季が違う」


 こめかみに青筋を浮かべた靖近が印を組む。保也もそれに応えようとしたところで、エレベーターが開いた。


「……」

「……」


 二人が不機嫌になりながらそちらを見る。

 エレベーターから降りてきたのは、銀色の三つ編みを靡かせた、晴明だった。


「やあ。道満の手下に襲われたらしいね」

「せーいめーい!」


 保也が飛び掛かると、晴明は静かにそれを躱した。保也がベシャリと床に落ちる。


「ふ、ふふ、さすが晴明……美しい身のこなし……!」

「怪我がなくて良かったよ。保也以外」

「吾も怪我してないよ!」

「保也の怪我はすぐに治るだろう。人間はそう簡単に治癒しないんだから、一緒にするな」

「えへへ、晴明に褒められた」

「褒めてない」


 晴明が鬱陶しそうに手を払う。それでも保也はにへにへと笑っていた。


「さて、保也は放っておいて、今回のことを教えてくれるかい」

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