第55話

 手当をされて、待機を命じられた天文部プラス靖近。天文部のフロアにつくと、明近が自分のデスクまで走って行って、倒れた。


「もう疲れた〜!!!」

「兄さん、コーヒー飲みますか?」

「飲む! ミルク多めで」

「じゃあ淹れますね」


 いそいそと座布団を枕にしてだらける明近。苦笑いした保也も、ポットの前に立った。


「りんちゃんは?」

「あ、自分で淹れます!」

「いいよいいよ。ここまで来ちゃったから。砂糖とミルクいくつ?」

「ありがとうございます……じゃあ、ひとつずつで」


 オッケーサインを出した保也に会釈して、自分の席に座る。


「いやー、まさか、休日までここに来るとは思わなかったな」

「……狙われたのって、やっぱり私ですかね」

「ほぼ確実でね」

「……すみません」

「凛々花ちゃんが謝ることじゃないよ。だって君は勝手に身体を狙われてるだけで、悪いことなんかしてないんだから」


 明近が手招きするので、座布団を持って近くまで移動する。起き上がった明近は、凛々花の額を軽く弾いた。


「だから、自分が悪いなんて、絶対に考えちゃだめだよ」


 額を押さえながら、凛々花は頷く。


「あー! 明近がパワハラしてるー」

「おいクソ鬼、ふざけたことを言うな。あれはご褒美って言うんだよ」

「うんどう考えてもご褒美ではないな!」


 凛々花は保也に、明近は靖近にコーヒーを渡される。


「パワハラだなんて酷いなぁ。凛々花ちゃんが無駄に自分を責めないようにしただけじゃん」

「さすが兄さんです」

「靖近、もうちょっとミルク入れて」

「俺も同じこと思いました。やっぱり俺たちは正真正銘の双子ですね……!」


 靖近は笑顔で追加のミルクを入れに行った。


「あー、この後の事情聴取やだなー。逃げていい?」

「だめに決まっているであろう」

「だって俺たち、何もわかんないじゃん。店にいた時から尾けられてたみたいだし、そうなるとどこからなんてわかんないし」

「彼奴はただの下っ端だろうな。特別強いわけでもない」

「しかも一人で寄越したってことは使い捨て。そのくらいしかわかんないよ」


 凛々花は目をぱちぱちした。


「使い捨てなんですか……?」

「多分ね。そうじゃなきゃ、単身で陰陽寮に突っ込んでこないでしょ」

「でも、あの、術……? みたいなのは、道満と同じものでしたよね……?」

「え?」


 明近と保也が目を丸くする。


「りんちゃん、それ本当?」

「え、あ、はい。あの触手、コンビニで見たのと一緒だと思います」


 凛々花がそう言うや否や、二人の顔が曇った。凛々花は自分が変なことを言ったの華とオロオロするが、戻ってきた靖近の言葉に驚くことになる。


「俺たちには、触手は視えなかった」

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