第57話

 道満に遭遇した時のことを簡単に話すと、晴明は微笑みながら凛々花の頭を撫でた。


「怖かったね。報告によると、襲われたのは二回目だろう?」

「晴明、吾も! 今回襲われたし、前回は吾が助けたんだよ!」

「保也、ちょっと本当に黙ってくれないか」


 飛びつこうとする保也を片手で払う。


「道満の目的は、君の身体なんだってな」

「は、はい」

「今の身体はどんなのだったか、覚えているか?」

「こ、子どもでした。乗っ取られてから、ずっと暗いところにいるって……名前も、わからないって」

「……その口振り、話したことがあるみたいじゃないか」


 晴明の視線が、剣呑を帯びた。

 凛々花は、小さく頷く。


「夢で、会いました」


 そう言った途端、晴明以外の全員が目を剥いた。


「夢で⁉︎」

「おいふざけているのかいつのことだ」

「凛々花ちゃん……報連相って知ってる?」


 途端に慌て始めた三人に、凛々花は首を傾げる。


「ま、まさか……怖い夢見た、って言ってたやつ?」

「はい」

「あああああ吾の察知能力が悪かったせいで!」


 保也が頭を抱えてうずくまると、ここぞとばかりに靖近が足蹴にする。


「このクソ鬼が。本当に予知能力持ってるのか? 部下が道満に遭遇する未来、本当に避けられなかったのか?」

「前回はともかく、夢で遭ってるんじゃ今回は避けられた未来だったかもしれないね」


 明近と靖近からの攻撃に、保也はしくしく泣くフリをした。晴明はそれをさらりとスルーし、凛々花と向き直る。


「夢は、生と死の狭間だ」


 誰かが言った。眠ることは死ぬことだと。

 簡易的な死。それが眠り。


「道満が夢に現れたということは、生も死も彼に手をかけられているということだ。でもあいつは、夢の中で凛々花ちゃんを殺して身体を奪わなかった。……なぜだ?」


 晴明が自身の口元に触れる。


「夢に干渉できたのに? 精神世界に触れることができたのに? ……あいつは、どうやって身体を乗っ取っているんだ?」

「せ、晴明さん」

「……変な術使ってることは確かだな。凛々花ちゃん、他に気になるところは?」


 そう問われて、凛々花の脳裏に過ぎったのは、寂しそうに笑う名もなき男の子。


「……道満を、あの子の身体から引き摺り出したら、元の精神って戻ってくるんですか?」


 寂しい男の子。彼を救う手立ては、あるのか。

 お母さんのところに返してあげたい。お母さんに名前を呼んでもらいたい。あの子に、普通の暮らしを。


「……道満がどんな術を使っているのかわからない以上、はっきりとしたことは言えない、。ただ」


 晴明が、言いにくそうに視線を逸らす。


「通常、一つの器に精神は一つだ。それ以上は、入れられない」

「……じゃあ、道満がいるってことは、あの子は」

「戻すのは、容易ではないだろうな」


 思考が散っていく。

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