第48話
「……」
「この屋敷には、今。汝とりんちゃん、双子の気配しかない」
きゅうと母親の瞳孔が細まった。
「りんちゃんのお父上は、元天文博士だと聞いた。が、吾が陰陽寮に入ってから、娘ができた天文博士など聞いたことがないのよ」
「……言わなかっただけかもしれないでしょう」
「うん。それもあり得る。だから、吾は晴明に聞いたのよ」
母親は美しい立ち姿のまま動かない。動揺もしていない。
「引退した天文博士の中に、りんちゃんと同じ霊力はいたか? と」
霊力というものは、誰から受け継いだかによって、その誰かに似るものである。遺伝子のようなものだ。直近の家族に霊力を持っている人がいなくても発現することもあるが、それはもっと遠い親戚が霊力を持っているからということが覆い。つまりは先祖返りである。
例えば、凛々花なら元天文博士だという父親と似るはずなのである。
でも、晴明は言った。過去の天文博士の中に、凛々花と同じ霊力はいないと。
では、元天文博士だという、凛々花の父親は、何者だ?
「あなたには関係のないことですよ」
母親は、にこりと笑った。
「……これは安倍家のことですので」
「吾も安倍だよ」
「いいえ。あなたとは関係ありません」
「ふぅん、即答できるんだ。じゃあその『安倍』っていうのは、本家とか他の家じゃないってことか」
保也は笑顔を貼り付けた母親を見つめる。
「……これ以上深追いはしない。でも、これだけは言っておく」
こつんと保也がぽっくり下駄を鳴らす。
同時に、保也から息苦しくなるような霊力が溢れ出した。
「しばらくりんちゃんは返さない。汝の疑惑が晴れるまで」
「……素晴らしい能力ですね」
「あれ、吾の能力知ってるんだ?」
「ふふ」
まるで保也の未来予知のことを知っているかのような言葉に、保也の警戒が強くなる。
「保也さん?」
家の中から、荷物を持った凛々花と明近、靖近が出てくる。
「サボってんなよ」
「ごめ〜ん、ちょっとお話ししてて。荷物それだけ? 吾、車のドア開けるね!」
「一番楽な仕事選びやがって」
一転してけろっと笑う保也に、靖近が顔を顰める。
母親の横を通り過ぎた三人。凛々花は振り返らなかったが、明近と靖近は振り返って頭を下げた。
「凛々花」
母親の声にも、振り返らない。
「期待していますよ」
「……うざ」
小さくこぼした凛々花は、ミシンを抱え直して車まで足早に戻っていく。保也たちも、それに続く。
母親は四人が角を曲がるまでそれを見つめていた。見えなくなるとそっと息をつく。
門扉が音もなく閉じて、母親の姿を隠した。
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