第49話
「さーて。今日の用事も終わったし、どっか遊びに行く?」
「兄さんがいるところならどこでも楽しいです」
「ブラコン止まらないね〜」
帰りの助手席は靖近。鼻歌でも歌い出しそうな様子だ。
「まずはお昼じゃないか? りんちゃん、何か食べたいものある?」
「私はなんでもいいです」
「そう言わずに! 何が好き? 中華? パスタ? 和食とか?」
保也に詰め寄られて、凛々花は困ったように眉を下げる。
「とっとと選べよ。兄さんが困るだろ」
「凛々花ちゃんの食べたいものでいいんだよ〜。店は靖近が探すから」
前の二人に言われて、ぐっと言葉を詰まらせた。
そして少し悩んだ後に、小さく口にした。
「チーズハンバーグが、食べたいです」
「おっ、いいね! チーズインとチーズオンだったらどっちが好きかえ?」
「どっちも好きですけど、どちらか選ばなきゃいけないってなったら、チーズインです」
「わかる〜! 吾もどっちかって言えばチーズイン!」
きゃらきゃらと笑いながら話す保也。その前の席で、靖近はスマホで店を調べている。
「兄さん、次の信号を右でお願いします」
「はいよ〜。もう見つけたの? えらいね」
明近に褒められると、靖近は得意げに胸を反らした。
「兄さんの唯一の弟なので」
「ねー靖近。なんていうお店? 吾もメニュー見たい」
「行ってから選べばいいだろ」
「そうだけど〜! 事前にある程度決めといた方が楽だろ?」
「……チッ……フレッシュハンバーグ」
「あああそこね!」
靖近の舌打ちは無視して、保也は店を調べ始めた。身を乗り出して凛々花と二人で、一つのスマホを覗き込む。
画面に表示されたメニューは、凛々花がよく知るものだった。
「あ……、ここって、フレッシュハンバーグって名前だったんだ」
「あれ、りんちゃん知ってる?」
「はい。小さい頃ここで初めてチーズハンバーグ食べたんです。すごく美味しかったけど、店の名前まで覚えられなくて。ずっと引っかかってたんですけど、今解決しました」
初めてチーズハンバーグを食べたのは、父親が誕生日に連れてきてくれた時。お子様ランチではなくチーズハンバーグを食べることで、なんだか大人になったような気分だった。
熱いから気をつけてねと言われた鉄板。その上に乗せられた、じゅわじゅわ音を立てるハンバーグ。おぼつかない手つきで半分に割ってみれば、とろりとしたチーズが溢れてきて、興奮したのを覚えている。
「それ以来行ってないのかえ?」
「はい。そういえば、連れて行ってもらったのはそれだけです」
「ふぅん……。家族でご飯食べに行くなんて、仲がいいんだね!」
「いいえ。その時は、父親と私の二人でした」
「あれ、お母さんは一緒に行かなかったのかえ?」
凛々花は目をぱちくりさせた。
「……そういえば、一緒に出かけたことはないですね」
「えっ、そうなの?」
「はい。母が、家の外に出るのは滅多にないです。出不精なんですよ、あのババアは」
ふっと、保也が黙り込んだ。
「保也さん?」
「……ううん、なんでもない! お、そろそろつくんじゃない?」
車が駐車場に入っていく。
「凛々花ちゃんと保也、先に名前書いといてくれない? 俺たち、車停めたら追いかけるから」
「おっけー! りんちゃん、そっちから降りられる?」
「あ、はい!」
凛々花と保也が降りると、車が動き出す。
二人が店に入ると、数人待っている人がいたが、そんなに待たずに呼ばれそうだった。名前を書いて、空いているソファーに座る。
「ねえりんちゃん。お父さんのこと聞いてもいい?」
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