星への道
折上莢
第1話
「ちょっとママ!」
「お母様と呼びなさいと何度も言っているでしょう」
古風な日本家屋に、
「どうしたの。お勉強は終わったの?」
「天文道の勉強はしないってずっと言ってる! それより!」
母は盆栽に鋏を入れながら、視線を向けずに問いかける。
凛々花は机に紙束を叩きつけた。
「なんで! 私が陰陽寮に入ることになってるの⁉︎」
紙束の表紙には『陰陽寮 入寮について』と書かれている。
ここは、陰陽道・天文道・暦道を生業とする組織“陰陽寮”が公的なものとして存在する“にほん”。廃れるはずだった神秘的な力が、そのまま残った世界。
「お前には安倍の名を持つものとして、陰陽寮に勤める義務がある」
「嫌だって言ってるでしょ⁉︎ 私はデザイナーになるの!」
「馬鹿言ってるんじゃありません! そもそも、なんですかその赤土化粧みたいな瞼は! なんですかそのごちゃごちゃした服は! そんなふざけた格好を許した覚えはありません!」
母がきっと眦を釣り上げる。凛々花も負けじと食ってかかった。
「赤土化粧とか言うな! これは地雷メイクって言うの! このワンピースだってかわいいでしょ⁉︎ この袖のリボンとか!」
「邪魔でしょうがそんなひらひらしてたら!」
袖に縫い付けられた黒いリボンを見せつけながら、凛々花は叫んだ。それに文句を言う母の服は着物で、盆栽を手入れするために襷掛けをしている。
安倍家とは、かの有名な陰陽師・安倍晴明の分家の子孫にあたる家系である。陰陽寮が公的組織として残るにあたって、能力のある安倍家と賀茂家の人間たちはそのほとんどが職員として採用された。それは今でも引き継がれており、高校を卒業した凛々花も、母が勝手に申し込んだ。
星を見て吉兆を占う天文道。公の暦を見て作成する暦道。摩訶不思議な事件を解決する陰陽道。陰陽寮はこの三つの部署から構成される。彼女が配属されたのは天文を扱う部署。その得業生という、まずは天文道を学ぶ役職を得た。
「お前は星見の才能があるはずよ。勉強は何を言ってもやらないけど。だから明日から天文得業生として、陰陽寮に勤めなさい」
母は話は終わりだと言うように、盆栽を持って立ち上がった。
残された凛々花は、拳を握りしめて母の後ろ姿を睨みつける。
「その格好もやめなさいよ」
「誰がやめるか! ばーか!」
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