第51話

「ふー! お腹いっぱい!」

「保也さん、本当にパフェだけでよかったんですか?」

「うん! マスカット美味しかった!」


 明近の奢りで店を出た四人。車に乗って駐車場を出る。


「りんちゃんも美味しかった?」

「はい!」

「うんうん、ならよかった!」


 後部座席できゃらきゃら笑っていると、ちらりと明近がミラーで後ろを見た。


「……」

「兄さん」

「うん、わかってる」


 意味深な会話に凛々花が首を傾げると、靖近が振り返る。


「シートベルト握ってろ」

「え?」

「兄さん、大丈夫です」

「え? なんですか?」

「いいから」


 言われた通り凛々花がシートベルトを握る。

 同時に、ぐわんと車がスピードを出した。シートに叩きつけられるような感覚。明近はぐんぐんスピードを上げていく。


「明近さん⁉︎」

「喋ってると舌噛むよー」


 赤信号ギリギリで急カーブをする。前から来た車が慌てて止まり、クラクションを鳴らす。


「あーごめんごめん」

「気にしなくていいです兄さん」

「いや気にしてください!」


 凛々花の悲鳴をからりと笑い飛ばした明近が、また曲がる。

 まるで、何かから逃げているかのように。


「明近、何事だ」

「尾けられてるっぽい。俺たちが店にいた時からかな、この感じだと」


 保也が振り返る。

 このスピードにも関わらず、ピッタリと追いかけてくる白いミニバン。


「……誰かえ、あいつ」

「さあ? でも、最近の話題から考えると、道満の手先だろうね」

「は〜ん……はりま蘆屋塚のヤミ陰陽師にも、新顔が入ってきてるってことか」

「俺のドラテクに追いつけるニューフェイスってこと? そりゃ貴重だ」

「で? どこ向かってるのかえ?」


 凛々花が不安げに、ぎゅっとシートベルトを握りしめる。

 明近はルームミラー越しにそれを見て、笑った。


「陰陽寮だよ」

「陰陽寮?」

「今、靖近が陰陽寮に厳戒態勢敷いてもらってる。泰さん芳昌さん良平くん……あと、忠幸くんもいるって」

「……ゆきちゃんは、やばいんじゃない?」

「はは、いいでしょ別に。敵に情けかけてどうすんの?」


 車は今朝見た道に入っていく。後ろのミニバンも、距離を縮めようとスピードを上げてくる。


「うーん追いつかれそう!」

「あと一キロないだろう! 気張れ!」

「無理だよ〜今こっち百キロ出てるんだよ? なんであいつこんなスピード出てんの?」


 ミニバンは距離を詰めてくる。


「……。……わかった」


 保也が、シートベルトを外した。

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