第53話
「えっ⁉︎」
「お。りんちゃん、霊力使えたね〜」
保也の手を握ったまま、後ろに大きく跳躍した二人。人間の跳躍力ではない。凛々花は驚きと高さの恐怖から保也の腕にしがみついた。
「霊力⁉︎ これが⁉︎」
「火事場の馬鹿力ってやつだね!」
「霊力なんですかこれ⁉︎」
保也に抱きかかえられ着地する。触手と距離ができた。
「よしじゃあついでに。りんちゃん、あいつに霊力丸めて投げてみようか!」
「霊力を丸めて投げる⁉︎」
「そう! 今なら霊力が流れやすくなってるだろうから!」
ジリジリと距離を取られている。
「……っ」
凛々花は意を決して、緩く手を合わせる。
「そう。流れを意識して。自分の中に流れる霊力を、手の中に集めて」
保也の声に従い、少しだけ指に力を入れた。掌が温かくなってくる。
「大丈夫。そのまま続けて」
徐々に、手の中に生まれた何かが手を押し上げて膨らんでいく。温かくて、手を叩いたら消えてしまいそうなそれ。じっと目を凝らすと、それはシャボン玉の中に煙を閉じ込めたような見た目をしていた。
「よし。さありんちゃん、それを思いっきり、あいつに投げるんだ!」
保也に背中を押されて、前に出る。
凛々花が顔を上げると、触手は先ほどより前進してきていた。壊さないように霊力の塊を持って、触手に投げつける。
その瞬間、脳内に直接響くような悲鳴が聞こえた。
頭痛を呼び起こすような、甲高い声。咄嗟に耳を塞いだが、小さくもならない。
「———りんちゃん!」
悲鳴に重なって聞こえた、保也の叫び声。目を開けると、運転手の男が眼前に迫っていた。
男は真っ直ぐ、凛々花の首に手を伸ばす。
まずい。避けられない。
本能的に、そう理解した。
「させないわよ」
横から飛んできた小柄な影に飛び蹴りをされた男が転がっていく。
「た、忠幸、さん……」
忠幸は凛々花の声に振り向かなかった。蹴り飛ばした男の元へ、ゆっくりと歩いていく。コツコツと、ヒールを鳴らしながら。
忠幸は倒れてる男のそばにしゃがみ込むと、前髪を掴んで持ち上げた。
「賀茂満義はどこにいるの?」
見た目にそぐわない低い声で、忠幸は問いただす。
「あんたがはりま蘆屋塚のヤミ陰陽師だっていうことはわかってるの。答えなさい、賀茂満義はどこにいるの!」
男は、うっすらと目を開けた。
「……賀茂、満義……。……ああ、あいつか」
ニタリと笑う。
「裏切り者に、どうして固執する?」
「……」
忠幸が唇を噛んだ。
「陰陽寮を裏切って道満様についたやつに、どうしてこだわる? ……ああ」
男が、前髪を掴んでいる忠幸の腕を掴んだ。嘲るような笑みが濃くなる。
「殺しておきたいのか?」
忠幸の顔から、怒りが抜け落ちた。
「わかるよ、あいつは陰陽寮の恥だ。殺しておきたい気持ちもよく———」
その言葉は、最後まで続かなかった。
忠幸が小さな手を握って、力一杯男の顔を殴ったのだ。
「忠幸!」
「あんたに何がわかる!」
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