第40話

「はー食った食った!」

「あんまり残らなかったわね。奈那子たちの分はまた作って持ってくるよ」


 隼がお腹をさすりながら満足そうに言う。残ったおかずをタッパーに詰めながら、忠幸は笑った。


「凛々花ちゃん、ケーキ食べられそう?」


 忠幸に問われた凛々花は、食後のケーキの存在を思い出した。


「……………………………………食べられます」

「無理しなくていいよ?」

「いや、食べられます。ていうか食べたいです」


 凛々花が神妙な顔をすると、忠幸と出月が失笑した。


「まあ、食べたいのなら仕方ないね」

「累と隼と雅はどうする?」


 出月が冷蔵庫を開けながら尋ねると、机に突っ伏した雅と椅子にもたれかかった隼は首を横に振った。


「俺明日食べるー」

「ぼ、僕も、今は無理かも……」

「わかった。累は?」


 累はテーブルに頬杖をついたまま、出月の方を見ないで答えた。


「食べる」

「食えるか?」

「食べられる。凛々花ちゃんを一人にはしない」

「無理なら止めといた方がいいぞ」

「無理じゃない。食べる」


 頑なに「食べる」を繰り返す累に、出月はため息をつく。


「無理なんだろ。明日にしとけ」

「ヤダ」

「やだじゃない」

「だって凛々花ちゃんと一緒に食べたい」


 微かに頬を膨らませる累。凛々花は少し思案した後、累の腕を突いた。


「明日、帰ってきたら一緒に食べる?」

「……でも、凛々花ちゃん、今食べたいでしょ?」

「累ちゃんと一緒に食べたいから、明日でもいいんだよ。明日一緒に食べよ?」


 凛々花がそう言うと、累は渋々頷いた。


「うん。出月さん、やっぱり明日食べます」

「了解。ごめんな」

「いや、全然!」


 凛々花が慌てて首を振る。


「ねえ出月にいー、ポテチ食べていいー?」

「お前、さっきケーキいらないって言っただろ。風呂入ったらまた腹減った騒ぎするんだから、我慢しろ」

「えー」


 不服そうに口を尖らせる隼に、斜め向かいの雅が苦笑いした。


「隼、ポテチばっかり食べてるから身長伸びないんじゃない……?」

「えっ、雅まで俺の身長イジるの⁉︎」

「よく寝た方がいいよ」

「寝てるじゃん! 俺多分誰よりも寝てるよ⁉︎ て言うか寝ろって言うなら雅でしょどう考えても!」

「僕は……、夢見が悪いから」

「ちゃんと寝ればその根暗も治るって! な、凛々花ちゃん」


 急に話を振られた凛々花はぎょっとしながらも頷いた。


「でも怖い夢見たくない……」

「小学生みたいなこと言うじゃん」

「見た目で言ったら隼の方が小学生なのに……」

「お、喧嘩するか? 俺の最高出力電撃呪術受けるかー⁉︎」

「ごめんって……」


 凛々花は、小さく笑う雅を凝視する。

 最初は、誰にでも怯えて、全てに怖がっている印象だったのに。

 この人、仲がいい人の前だと笑うんだ。

 それくらい、仲良くなれる同僚がいるんだ。


「……凛々花ちゃん」

「……えっ、あ、なに?」

「つもりん、気になるの?」

「え、そう言うわけじゃなくて」

「じゃあお話ししたい?」

「ううん、別に」

「……じゃあ、僕とお話ししよ」


 累が、投げ出されていた凛々花の手を握る。


「……うん。いいよ」


 人をときめかせるための行動を、仲良くなるためにする累。これは慣れるのに時間がかかりそうだと、凛々花は笑った。

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