第14話

「え?」

「お前、本当に何もわかんないのか? 馬鹿なのか?」


 辛辣な言葉に困惑していると、保也が真っ青な顔をして凛々花の足に触れた。


「りんちゃん、足出して」

「え? は、はい…」


 大人しく足を崩すと、良平が無理矢理包帯を引き剥がした。霊符の下で、赤い跡がうごうごと蠢いている。


「な、何これ…」

「だから呪詛だって言ってるだろ! 呪詛返しする。道満には傷ひとつつかないだろうけど、しないよりマシだ」


 印を組んだ良平の周りに、白い霊気が立ち上る。凛々花は不安そうにそれを見ていた。

 生憎普通に生きてきた凛々花にとって、呪詛をかけられた経験はない。対処法もわからなければ、これから良平が何をするのかもわからない。ゆらゆらと蜃気楼のように揺れる霊気を見て、眉を顰めた。


「安心せい。良平の腕は確かだ」


 保也の手が背中に添えられる。同時に、良平が小さな声で呪文の詠唱を始めた。

 するすると小さな黒い球に集約されていく赤い痕。良平の詠唱が終わると、足の跡は綺麗さっぱり無くなっていた。

 黒い球を掴んだ良平は、そのままぎゅっと握りつぶす。弾けたそれは、黒い霧となって消えていく。


「…い、今ので、呪詛返し? は終わったんですか…?」

「お前、本当に何もわかんねーのな」


 ため息まじりに吐き捨てる良平に、凛々花は首をすくませた。


「…ありがとうございます」

「ふん、ぼくにかかればあんなもん、朝飯前なんだよ」


 しかしその得意げな顔も、すぐに歪む。


「まあ、道満には傷一つついてないってわかるのが気に食わないけど」


 ぎゅっと小さな拳を握った良平が、元の位置に戻っていく。それを見送っていると、隣に控えていた泰が、髪型が崩れない程度に頭を撫でた。


「気分悪くないか?」

「あ、はい。大丈夫です…」

「温かい飲み物を用意しよう。顔が真っ青だ」


 バッと頬に手を当てる。バッチリ化粧はしているが、それでも顔が青いとわかるほどでは余程だ。

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