第13話

 畳の大部屋。奥には御簾がかかっていて、うっすらと人影が見える。


「お揃いかな、幹部殿は」


 保也の言葉に、一番上座に座っていた黒髪の爽やかな青年が微笑む。


「こちらは揃ってるよ。明近は?」

「ナンパ。成功したんだろうよ」

「ははは、それはよかった」


 保也が凛々花を座布団の上に促す。音を立てないように座ると、上座の青年が頷く。


「まずは自己紹介からしようか。私は賀茂泰、陰陽頭を務めている」


 泰が隣の少年の背を軽く叩いた。黒髪で赤目の少年は、凛々花を一瞥するとチッと舌打ちする。


「こら、良平。舌打ちするな、挨拶しろ」

「どーせぼくより下のやつなんでしょ? 挨拶する必要ないって」

「良平」


 凛々花と目が合った良平は、べえと舌を出して挑発する。ぐっと詰まったが、相手は子供だ。深呼吸をして怒りを逃していると、長髪に乗ってこないとわかった良平は、つまらなそうに口を尖らせて顔を背けた。


「すまないね。こいつは良平、陰陽助だ」

「あやつは生意気だが呪詛の腕は晴明に迫るほどだ。最年少にして陰陽助に昇進した、実はすごい少年なんだよ」


 保也が横からこっそりと教えてもらって目を見開く。良平は嘲るように鼻で笑った。


「はいはい僕の弟がごめんねぇ。僕は芳昌。陰陽博士だよ」

「陰陽、博士…」


 博士と聞いて思い浮かんだのは、同じ博士の称号を持っていた明近。


「陰陽博士は天文博士や暦博士と比べると、少しだけ階級が上になるな」


 まあ少しだけだがな、と笑う保也。

 それに対して芳昌はひらひらと手を払う。


「まあ階級の話なんかいいんだよ。報告の話、詳しく聞かせて?」

「あ、はい…」


 芳昌に促された凛々花が頷く。

 蘆屋道満、という言葉を聞いて、良平が顔を上げた。泰も眉間に皺を寄せ、凛々花の話を聞いている。

 道満との邂逅、保也に助けられたこと、その後に言われた道満の言葉。それらを話し終えた時、厳しい顔をした三対の目が、凛々花に向けられた。


「…お前、その足何?」


 良平が、畳まれている凛々花の足を指差す。正座していることに加え、包帯と霊符を巻いているため、赤く跡がついた様子は見えない。

 跡がついていると説明しようとした時、良平が立ち上がる。ズンズン凛々花に近づくと、目の前にしゃがみ込んだ。


「…呪詛だ」

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