第45話

「……明日休みでしたっけ」

「えっ。そうだよ? 陰陽寮は公務員だから、完全週休二日制」

「明日何曜日ですか?」

「土曜日だよ」

「土曜日……」 


 凛々花がスマホの画面を見る。確かに今日は金曜日だ。曜日感覚もわからないまま放り出されたのでわからなかった。


「明日は何するのかえ?」

「……部屋の整理ですかね。あと、置いてきたものを回収しに行きます」


 母親が作った荷物を簡単に見たが、やっぱり足りないものがいくつもある。裁縫道具だけは、どうしても手元に置いておきたかった。あと着物はいらないので返却する予定だ。


「ああ確かに、それは大事だ。でもりんちゃん、車持ってないよね?」

「まあ、一回で持ってこようとは思ってないので。何日かに分けます」


 凛々花がそういうと、保也はニンマリと笑った。


「そんなときこそ、先輩を頼るんだよ!」

「保也さん、免許持ってるんですか?」

「ううん! 吾は持ってない!」


 じゃあ誰に頼れと。首を傾げると、保也は得意げに胸を反らした。


「そこの遅刻魔に、罰として課そうじゃないか」


 視線が向けられたのは、博士の席。


「……明近さんですか?」

「そう!」

「いや、でも申し訳ないです……」

「いいのいいの! 今日分の明近の仕事は吾がやってるんだから、これくらい許される」


 でも、と続けようとした時、エレベーターが到着した。


「あー……今日土曜日だと思ってたあ」

「明近、新年度早々から遅刻するな」

「ごめーん」

「全く……。罰として、明日運転手な」

「待ってなんの話?」


 目をぱちくりさせる明近を他所に、保也は凛々花に笑顔を向ける。


「許可が取れたぞ。明日は吾もついてくから、一緒に荷物運び出そうな」

「ねえちょっと待ってってばなんの話? 俺がいない間になんの話してたの? 俺まだ理解できてないってば」


 きっと保也が明近を睨みつけた。


「遅刻の罰だ。りんちゃんの実家に荷物取りに行くから、明日は大きめの車借りてくるんだぞ」

「えっ明日はデートの予定が……」

「ふむ。今日の汝の仕事、代わりにやっていたのは誰だと思う? あー疲れたなあ、録画してある映像の雲の動きを見てるのは」

「ごめん保也ですごめん」

「わかればいい。十時までに車借りてきてな」

「はい……」


 保也は再び凛々花に笑顔を向ける。


「じゃあ、明日の十時に寮の前な。実家に持って行く荷物の準備、忘れないでね!」

「……はい」


 さっくりと決まってしまい、これでいいのかとも思ったが、特に何も言わなかった。何度も実家に行くのは嫌だということで、申し訳ないとは思いつつも、凛々花からしたらラッキーなのだ。

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