第46話

 さて、そんな話をした日の翌日。


「おはようりんちゃん! いい荷物運び出し日和だね!」

「おはようございます、保也さん。早いですね」

「うん! 明近を叩き起こしてレンタカー屋に突っ込んできたからね!」


 朝なのに元気な保也が、コーポ・しじょうの入り口まで迎えにきてくれた。


「置いてくる荷物はそれだけ?」

「はい。着物は絶対に着ないので、一式捨ててきます」

「着物嫌い?」


 保也が首を傾げる。その保也は今日も今日とて着物スタイルだ。ぽっくり下駄も健在。着物が普段着の人の前で言うのは憚られたが、凛々花はぽそぽそと小声で答える。


「嫌いではないですけど……好みじゃないです」

「そっかあ、それは仕方ないね! 全部返却してこよう!」


 てっきり着物の良さについて説かれるのかと思っていたが、保也はあっさりと肯定した。


「りんちゃんの服とはかなり系統が違うもんね。吾、ちょっと勉強した!」

「着物だと苦しくて」

「わかる〜! 吾も最初着た時苦しすぎて吐いたもん!」


 そんな話をしながら保也が凛々花から桐箱を受け取ると、敷地内に車が入ってきた。運転しているのは明近だ。


「ぴったりだね」

「あんまり荷物ないっていうから普通車にしたけど、よかった?」

「うむ。三人で行くしな」

「あー、それなんだけど」


 降りてきた明近が、助手席を指差す。


「……チッ、お前もいるのかよ」


 保也を睨みつける靖近が舌打ちをしながら降りてきた。


「ん? なんで靖近がいるのかえ?」

「兄さんがいるところに俺がいないわけないだろ。頭湧いてんのか?」

「口悪ぅ。りんちゃんの親御さんの前では絶対にやめてよ〜?」

「お前にだけだから心配するな」


 靖近はつかつか凛々花のところに歩いて行くと、残りの桐箱を持ち上げた。


「これだけか?」

「あ、はい! ありがとうございます!」

「おい鬼。後ろ開けろ」


 顎をしゃくると、保也は肩をすくめながらバックドアを開けた。片手に桐箱を持ったまま。靖近的には嫌がらせのつもりだったのだろうが、あまり効いていない。


「凛々花ちゃんは乗っていいよ。道案内よろしくね」


 明近が恭しく助手席のドアを恭しく開ける。


「は、はい!」

「兄さんの隣に乗れるんだから光栄に思えよ」


 靖近はそう言いながら、運転席と対角線の位置にある席に座った。


「靖近は吾と後ろだね〜」

「チィッ!」

「舌打ちでか!」


 保也が隣に乗り込むと、これ以上ないほど顔を顰めて、また舌打ちをする。


「ていうか、その場合、明近の後ろじゃなくていいの?」

「対角線の方が兄さんの顔がよく見える。あとバックするときに目が合う」

「うわ! ブラコン気持ち悪い!」

「祓うぞこの残穢が」


 そんな会話が後ろから聞こえてくるが、明近は笑って流していた。


「じゃあ、お願いします」

「はーい。安全運転で行くねー」

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