第42話

 目を覚ました時には、背中が汗でびっしょりと濡れていた。


「……」


 まだ外は暗い。向かいのベッドにいる累もまだ寝ている。覚醒して徐々に大きくなる心臓の音に、また汗が溢れる。

 あの子は、またあの暗闇で一人になったのか。

 もし、道満に身体を乗っ取られたら。

 ぐるぐる頭の中に不安が渦巻く。


「……あ」


 口を押さえていた手に涙が落ちてきたことで、自分が泣いていることを自覚した。

 怖い。不安と恐怖が、凛々花の脳を占める。


「……りりかちゃん?」


 累の声がした。顔を上げると、寝転がったまま、こちらを見ている累がうっすらと見える。


「どうしたの? さみしい?」


 とろりとした声に、何も答えられない。声を出そうとすると喉が震えて、嗚咽だけが漏れる。


「……」


 累は少し考えた後、布団を跳ね除けてベッドから降りてきた。


「ちょっと詰めて」


 ベッドの淵に膝を乗り上げた累が布団捲る。凛々花が涙の跡を擦りながら壁際に避けた。累は空いたスペースに寝転ぶと、凛々花の腕を引いて隣に寝かせた。


「狭いね」

「……うん」

「泣かないで。大丈夫」


 髪を梳かすように撫でながら、「大丈夫」と繰り返す。その声が微睡を帯びてくると同時に、凛々花の瞼も落ちてきた。


「僕がいるよ。友達だから、僕が、ちゃんと守るから……」


 累の瞼が閉じる。ぼやけた視界でそれを見た、凛々花の瞼もやがて落ちた。

 次に眠った時、道満も少年も現れなかった。

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