第2話 オーダーメイドVSレディメイド
コンドルは羽交い絞めにされながらも、ざまあみろと高笑うようにロボットを呼んだ。
「あいつは大金をはたいて作らせた、逸品だ。てめえの見た目だけしか再現できねえ、型落ちとは違う。だから後悔してももう許さねえ。そのきれいな面が歪むまで、けひひ」
「ああ、あの白兵戦闘用ロボット、J-1か。あれならもうすぐ始末するよ」
扉をけ破って現れた、俺が作ったロボットにそっくりな見た目のJ-1は、俺を守るロボットにない武器を持っていた。手には巨大な大槌を握っており、それを使ってあっさり俺のロボットのうちの一体をスクラップにしてしまった。まいったなあ、残る2体のロボットたちに、俺は命令を出した。
「ゲームオーバーだ」
俺の言葉が降参ととらえたコンドルは、何やらうるさく騒ぎ立てている。しかたなく心が痛みつつも、メイドに始末させた。その間にも俺のロボットたちは必死にずんぐりとした体で武器もなしに本家本元のロボットであるJ-1を破壊しようと、四苦八苦していた。だが、押さえつけるだけが精いっぱいのようで、自力で押し切られそうになっている。
しかたない。やはり美しくないが、これでいくか。
新たに転がる素材に対し、俺は手をかざす。手が熱くなっていく気がするが、気にしない。
「優秀な掃除屋よ。我の下に帰り給え」
素材を構成する肉体が分解されていく。液状化していく素材は、まるでスライムのようなゲル状の体へと変化していった。その後そのゲル状の体の一部をくびれや隆起させた彼は、みちみちと音を立ててゲル状の体を崩壊させていく。
「さあ、お目覚めだ。メイド14号」
目をつぶったままゲル状の体から現れたのは、横に立つもうスクラップ寸前のメイド13号と同じ見た目をしていた。その新たなメイドの誕生を前に、俺は数年尽くしてくれたメイド13号に礼を言った。
ありがとう。だがロボットであるメイド13号は、感謝という言葉を理解しない。命令ではないため動かない彼に、俺は最後の指示を出した。
俺はコンドルが持ってきたを抱えているロボット以外の2体だけでなく、メイド13号にも「仲良くしろよ」と命令を出した。その命令の意味は簡単。仲良しの証のハグ。俺の命令を受けたメイド13号は、なぜか最後に俺の方を振り向いてからJ-1に抱き着いた。
計三体にまとわりつくように抱きしめられたJ-1は、その膂力をいかんなく発揮するように大槌をふるおうとしていた。だが、俺が作ったばかりのロボットはともかく、メイド13号にはその力は通用しない。彼はその手で大槌を受け止め、空いた片手で鋼鉄の槌を砕いてしまった。
「ああ、さすがにオーバーヒートしてるか」
だが、これで打ち止めだ。振り払われたロボットたちが、這い出たゾンビのようにJ-1の足に絡みついている。そうして動けなくなったJ-1に向かい、メイド13号は最後の仕事だというように、正拳突きを放つように拳を構えた。そう、俺の最高傑作であるメイドの力を持つ彼の乾坤一擲の力をJ-1にぶつけたのだ。爆発音とともに放たれたその拳は、堅い外装ごとJ-1の体を打ち抜いて風穴を作っていた。
制御回路や駆動部を壊されたロボットたちに、動くすべはない。徐々に動かなくなっていくJ-1や足元に転がる俺のロボットたち。そして、パンチの衝撃で片腕を失った彼こと元相棒、メイド13号は体から黒煙を放って動かなくなってしまった。
俺の体は新たな相棒が抱きしめる様に守ってくれたため、爆風や破片を浴びることは無い。そして彼らにより制圧された残像兵力は存在せず、静かになる室内に響く俺のため息。この街も、大した収穫はなかったな。
やはり、もっと文明や異文化の世界を探さなければならないのだろうか。
「もし、そこの男」
聞いたことがない声の、まるで教会にある女神の彫像のような美貌の女が、玄関前で腕を組んで佇んでいた。
「店じまいなんで」
俺は扇情的な赤いタイトなドレスを身にまとう、長い黒髪の彼女を追い出そうと、適当な嘘をついた。だがしかし、この女、よくこの家が分かったな。もしかして、コンドルの情婦か? 嫌な推測が頭をよぎり、消すか?と脳内で彼女を審問する。だが彼女は快活に笑い、「下賤なマフィア風情と一緒にするな」と、つかつかとヒールの長い靴を履きながらも、すたすたとこちらに迫ってきた。
「なに、貴様の力を見たくてな。見事だよ。魔法も使わず、その精巧な模造品を作る才能」
そう言って俺の傍に立つ、新たな相棒、メイド14号の腕を握り、彼女はまるで万力でも使うかのごとく、彼の腕を砕いてしまった。ば、馬鹿な。
「ほっほっほ。面白いかえ?では、これならどうじゃ?」
そう言って彼女は、メイドの手足を砕き、ダルマにしてしまった。馬鹿な……こんな力が、こんな力があるのか? こいつは人間ではないのか? 俺は彼女が異形だと直感し、気が付けば彼女の体を触っていた。
「ふふっ、好奇心の旺盛なぼんめ」
彼女は自分の腕や足、体を触れることに嫌な顔を見せることなく、好きに触るがよいと両腕を開いた。しばらく彼女の体をまさぐってわかったことだが、彼女はロボットではなかった。あり得ない。人間が、いや、生物がこんな力を持つなんて。
「それはお前にも返ってくる言葉ぞ? 人間、いや、コピーキャットのレディメイドよ」
「コピーキャット? なんだ、それ」
「続きはあの世でじゃ」
気が付けば俺は、腹部を包丁で刺されたような痛みを負っていた。だが腹部にあるのは、包丁ではない。彼女の腕だ。ああ、なんて不思議なんだ。俺は消えゆく意識の最後の最後まで、腹部を貫く彼女の腕が気になっていた。
目が覚めれば、そこはまるで天国のような場所だった。雲の大地に、眩い太陽が照り付ける晴天。その中に彼女が、ボーンチャイナのような美しい白い椅子に長い足を組みながら腰かけていた。
「希少種のレディメイドよ。貴様の才能、我がためだけに活かせ」
言っていることはコンドルと同じなのに、あの強さの秘密を知りたい俺は、気が付けば彼女の言葉に首を縦に振っていた。
「して貴様、疑問に思ったことはないのか?」
大きな胸を揺らしながら、女神は俺に質問してきた。疑問?とくには……うーん。
「おぬしだけしか持っておらぬ、スキルの事じゃ」
スキルって、あの贋作の事か?確かに俺以外に使っているやつを見つけたことは無いな。ほかの人間は、一生懸命パズルのように組み立てたり色々頑張っているようだ。そう考えていたら、女神が俺の足元に原形のとどめていない生物を放り投げた。
雲の大地が受け止めたこの生物は?
「わしにも見せてくれんか? その死体を使って。そうじゃのう、さきほどの可愛らしいメイドを一人頼む」
「ああ、わかった」
俺は着ていたパーカーの袖をまくり、念じた。正直呪文や魔法陣は何となく言っていただけなので、俺は無言でメイド15号を作り出した。
中性的な容姿に、金髪の長い髪。ゴシックなモノトーンのメイド服。スカートは膝が見えない程度の長さだ。
「これでいいか?」
「さすがじゃのう。貴様によく似た、可愛らしいぼんじゃ」
女神はそういって、俺が手渡したメイド15号の体をぺたぺた手で触れながら、その精巧さを感じ取っているようだった。
「外観はA、中身は良くてCといったところか」
変な評価をしていると思いながら、彼女を見ていると彼女はメイドの股間付近を手でパンパンと叩いては、感嘆の声を上げていた。
「このもの、どこで手に入れた? いや、聞くまい。それより貴様、名は」
俺の名前か? 店ではレディメイドで通っているが。改めて考えると、特に思いつかなかった。だから俺は、素直にレディメイドと答えた。すると彼女は「それはまた、酔狂な」と笑みを浮かべている。何か変なのだろうか。
「まあ良い。しかし、長いな。チェーンと名乗れ、良いな」
別にいいが、長いか? それに、なんだか女みたいな名前だ。
「よいよい。メイドの褒美をやらねばな。これで良いか。よし、あと手をかざし、こう唱えよ。ステータスオープンとな」
女神は手を俺の方にかざし、光を照射した。うわ、まぶしい。それに、なんだそれ。新手の呪文か? 俺は光から体を隠すように腕で顔を隠して問いかけた。すると女神はそうだと頷き、俺に復唱するように命令した。
「ステータスオープン」
わけがわからないが、俺は言われるがままに唱えてみた。すると目の前に、よくわからない半透明なモニターが表示された。そこにはアイテム、ステータスなどが羅列されている。
「それが今のお前じゃ」
これが、俺?画面に描かれた俺の能力を見てみると、
LP(生命力) A
MP(魔力) S
SS(サポートスキル)レディメイド SS
素材探知 SS
アイテム 無し
なんだこれ。
「くふふ、横の記号はランクじゃ。ほかにもステータスはあるのだが、お主には見せるのも不要であろう。なにせ、自身で戦うことは無いのだから」
訳の分からない女神に詳しい話をきこうとしたところで、今更だが俺は彼女の名前を知らないことに気が付いた。
「わしか? わしは女神メルクリウス。貴様は今日から、わしの加護を受けて世界を羽ばたくのじゃ!」
俺の脳裏を読み取ったのか? 彼女はそういうと、頭に狐のような耳をぴょこんとはやしていた。おお、そのギミック、どうやったんだ?俺がメルクリウスの狐耳に興味が移っているのを知ったメルクリウスは、触ってみるか?と耳をピクリと動かしていた。良いのか?
「条件がある」
メルクリウスはそういって、俺の目の前に表示されたモニターに新たなメッセージを表示させた。異世界転生の準備は出来ましたか?
「異世界転生?」
「貴様はあの灰のような街でくすぶるほどの存在ではない。だからわしは、今一度貴様の生を奪い、再度流転させる。わしを楽しませよ。調度品、待っておるぞ」
たくらむ様な笑みをしたままメルクリウスは、重たそうな胸を両腕を組むようにして支えながら、口から炎を吐いた。その炎は俺の足元の雲をまるで蜘蛛の子のように散らしてしまった。お、おい!
「わしはいつでも、貴様の味方じゃ。この、、の神、メリクリウスを忘れるな」
落下していく体の浮遊感を一身に受けながら、俺は気が付けば木々が豊かな森のような場所で眠っていた。
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