女神の力で死体さえあれば何でも再現できる最強チートスキル『レディメイド』を手に入れた猫耳の俺より、俺の美人メイドが無双する件
ラスター
プロローグ
第1話 ジャンク屋レディメイド
‐レディメイド‐
大雨が降りしきる中、俺は稼ぎ時だと店の鍵を開けて来客を待った。
今日も俺を頼りにやってくる、訳アリの客人たちに準備をしなければ。そうだな、まずは茶を振る舞う用意か。俺は傍で立っていた清楚な見た目をしたメイドのような外見のロボットに、暖かい茶を用意するよう指示を出した。片言の返事と、さびたゼンマイロボのような動きを見せる彼女は、徐々にスムーズな動きで棚から茶葉を取り出し、ポットを用意していた。
こいつも長いこと使ったからな。そろそろ潮時かもしれない。だが、処分するにも場所が場所だ。まあ、最悪また誰かに売りつければよいか。
俺を頼む客もいれば、俺が頼む客もいるここは、俺の店だ。いや、正確には少し違うが。
『ジャンク屋 レディメイド』
知る人ぞ知る、名店だ。何の名店かって?それは言えないな。場所や営業時間は、そうだな。天気は雨。時間は不定期。数量限定ってことだろう。場所は近くの薄汚く薄暗い路地を真っすぐ向かい、突き当りを左に曲がる。そしてなんやかんや行ったり来たりをすると、ここに来られる。まあ要するに、一見さんお断りの店だ。事実、看板すらかかげていない。
家の前には不用品を処理するために設置した、金属製のごみバケツが並び、ちちちと鳴き声を上げて足元を横切る可愛らしいどぶネズミたち。
一見するとあばら家だが、そこが俺の家、兼、工房だ。
いらっしゃい。俺はパーカーにジーパンといったラフないでたちで、顔を隠すようにフードを深くかぶりながら、いつもの客に対して席とひびの割れた湯飲みに茶を出した。だがその客はその湯飲みを見ることもなく、茶を差し出した俺の美人メイドを見ていた。
「やろうか。安くするよ。コンドル」
「そうだな。レディ。ああいう人形はニーズがある。考えておく。ところで仕事だ」
スキンヘッドでレスラーのような恰幅の良い男、コンドルは、背後に連れてきていた子分のような奴らを店に入れてきた。安そうなスーツを着てネクタイをしていない彼らが、ひいひい言いながら何かを担いでやってきた。
おやおや、今度も随分と面白そうなものを。
扉は壊さないでくれよ?
艶のある黒スーツに身を包んだコンドルは淡々と俺に大きな黒いビニール袋の中から金属製のずんぐりとしたロボットを取り出し、仕事だと分厚い封筒を手渡してきた。
俺はそのパンパンに膨らんだ封筒を受け取り、中身を確認する。ひーふーみー、相変わらず気前がいいねえ。
「何体だい?」
「先ほどの金は手付金だ。出来るか? いや、やれ。いつも通りな。出来たらその封筒の倍以上、お前にやるよ」
口笛を吹く俺に対し、コンドルは自分のジャケットの中に手を入れ、よく磨かれたシルバーの拳銃をこちらに見せてきた。その姿を見たコンドルの背後に並ぶ子分たちは、興奮したように彼の動きに注目していた。
「かわいそうに」
「ああ、そうだな」
俺の額に冷たく当てられたその銃口。それは熱い茶を飲んだばかりの俺にとって、ちょうどよい熱さましだった。その冷たさを楽しみながら、茶を啜る。ああ、美味い。この幸せを分けてあげるためにも、事情の知らない彼の子分たちに南無南無と、俺は心の中で手を合わせた。
「とりあえず、試作品は3体ってところかな。1時間後、また来てくれ」
「ああ、それでいい。回収はまた別の奴らを使う」
契約成立とわかったコンドルは、不敵な笑みをこちらに見せてきた。それと同時に兄貴分の背中から放たれる猛獣のようなオーラを前に、興奮したような子分たちの眉間に鉛玉が埋められた。サイレンサーのつけられた拳銃で流れるような動作で3発。そして心臓に3発。
「見事なものだねえ」
「30分だ」
コンドルは倒れている子分たちを床と同一視するように、踏みつけて去っていった。
「ああ、かわいそうに」
冷たくなっていく彼らの体や、固まっていく彼らの表情を眺めながら俺は彼らをメイドに運ばせた。ぎしぎしと音を立てつつもけなげに働く彼女には、いつも感謝している。あとで飛び切りのオイルをあげよう。
彼女が3つの素材を別の部屋に運び終えた後、俺は彼女が向かった部屋に足を運んだ。木製の床に歪な魔法陣をペンキで描いた、よそ様が見たら怪しさ満点の部屋。俺はその部屋で、適当な呪文を唱える。今日はそうだな。
「哀れな末路の人間たちよ。どうかその身を恨むことなかれ。汝らの人生は終わりではない。始まりなのだ」
手をかざして俺が呪文を言い終えると、素材たちの体がまるで電子レンジの中に入れた石鹸のように、ぼこぼこと膨らんでいった。そしてシャツを裏返すように、膨らんだ部位が破裂して体の表面を包んでいく。そうしてしばらく見学していると、彼らの体が金属製のロボットたちに変化していった。計3体。俺は横並びで整頓した見た目そっくりな彼らに、こんにちはと手を挙げた。すると俺の真似をするように、彼らも同じ動作をとった。指示は聞こえているな。だが、これはどうだ? 俺は次から次へと、彼らの動作をチェックする。
だがそのチェックも長くはない。面倒になった俺は、彼らの体にほころびが無い事だけを確認して整備良好と認識した。
仕事終わりの茶を飲んでいると、また時間ぴったりにコンドルがやってきた。
「これでどうだい?」
軍人のように等間隔でコンドルの前に並ぶ元子分たちを前に、コンドルは鋭い目つきでにやりと笑った。
「相変わらずの腕だな」
どういたしまして。こちらはつまらない仕事だったよ。
「いうことは聞くのか?」
コンドルは強度を確かめるように、扉をノックするような手つきで3体のロボットを叩いていた。小気味のいい音を鳴らすロボットたちに、「整列」や「しゃがめ」などの指示を出すコンドルは、その指示を寸分たがわず遂行する姿に思わず口笛を吹いていた。
「やるねえ」
どうも。だがどういうつもりだい? また俺の額に拳銃をつきつけるなんて。
「お前はやっぱり、すごいやつだ。フリーにしておくには、危険すぎるほどにな」
「信用商売なんで、裏切るつもりはないんですがね」
「そう言うな。悪いようにはしねえよ。お前が作る模造品は、価値がある。俺が利用してやるよ」
不細工に笑うコンドルの醜悪さは、まさにそのあだ名にふさわしい獲物を前にした野獣のようだった。
「やめといたほうが良いと思うよ」
俺は誰の下にも就く気はない。それに、この世界に興味もない。代り映えのしない毎日に、場所を変えても毎度必ずこういう輩が現れる。ため息をつく俺を見て、下につく気になったと勘違いするこういう輩も、なれたものだ。
「メイド13号」
俺は近くで直立不動で動かなくなった、彼女の名前を呼んだ。するとその言葉を聞くや否や、室内に銃声とともに何かがはじけるような音がした。簡単な話だ。主の危機を知り、メイドが改造された指先から鉛玉を彼の拳銃を握る腕に放っただけだ。ふむ、命令は守ったようだな。メイド13号、殺すなよ。という命令をな。
その後は貴様が購入したはずのロボットたちが貴様を制圧しただけだ。
銃声は響けど、俺には届かない。むしろ背後からロボットの1体に羽交い絞めにされた彼は、残りのロボットたちに拳銃を取り上げられ、足を折られた。だらりとぶら下がる両足の代わりに、羽交い絞めにされてはりつけのような格好の彼は、まだ俺に対して敵意を向けていた。驚いた。さすが、このあたりを仕切るマフィアの幹部だ。
「て、てめえ」
そんな目で見るな。だいたい、そのロボットを作ったのは誰だと思っているんだ。当然
もとはお前の子分だが、管理者に俺の名前を入れていないとでも?
「く、そが……だが、俺を殺したからにはもうこのシマから。それに、俺が持ってきたロボットがいるのを忘れてないか? あれは組用に開発された、オーダーメイドのロボット! 貴様が作るロボットなどとは遥かに能力が違う!」
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