第43話 神VS神の子
「あいかわらず滅茶苦茶だな」
「誉め言葉として受け取りま、しょう!」
一難去ってまた一難とはこのことだろうか。盗賊の首領を倒したと思ったら、メイドが間髪入れずに大蛤を握る力を強めて、ブンと野球のバットを振るようにスイングした。その一振りは白球ではなく、赤く燃える長刀を受け止めてはじき返した。
「こ、今度はなんですの!? って、カグツチ!?」
エレンは盗賊の次に襲い掛かってきた者の正体に驚いている。だが相手は言葉が通じないようだ。アイテム欄に戻したくても、なぜか戻らない。
「おおおお!」と雄たけびをあげてカグツチがメイドに襲い掛かってきた。もしかして大蛤を握るメイドを敵と認識したのか? 長刀を力任せに振るうカグツチを見て、「危ない!」と叫ぶ俺とエレン。そんな俺たちの盾となるようにメイドはカグツチに立ちふさがり、「やれやれ」とため息を吐いて大蛤をふるった。その瞬間、大蛤の青い刀身から大量の水流があふれ出た様に見えた。静と動、二つの宝刀が鎬を削り、強烈な衝撃波と爆発音が俺とエレンに襲いかかった。
「エレン!」
とっさに衝撃波に吹き飛ばされそうになったエレンの腕をつかみ、俺は彼女を包むように抱きしめた。すると前方から、「あ!」と叫び声とともに何かを切り裂く音が響いた。馬鹿、戦いの最中によそ見なんてする……な。
「何をしてるんですか。人がせっかく、守ったというのに」
「いや、だから……その守ろうとしたエレンを」
「手を掴むだけで良いでしょうが!」
「はい……すみません」
「ご、ごめんなさい……」
素直に謝る俺たちになお説教を続けるメイド。そんな彼に俺たちが反論できないのには理由があった。一つは彼が軽々と片手で斬馬刀を操り、それを肩で担いでいること。もう一つは、俺たちの前方にマムシ同様一刀両断された、カグツチがいたからだ。燃える刀身も消えた、長い柄だけが残る長刀を握りしめて倒れる彼の姿に気を取られた俺たちに、メイドは「聞いているのですか!?」とまるで小うるさい教師の様に小言を続けた。終いには「気分を害しました」と車に戻り、運転席のシートを倒してふて寝を始めてしまった。持っていた宝刀、大蛤も彼は工事現場のシャベルの様に、地面に突き刺して放置している。
「ど、どうしましょう……」
「どうもこうもないだろう……はあ」
俺はため息をつき、宝刀をアイテム欄に収納させて適当な野盗の家に入り、せっかく手に入れた素材たちを使って、寝具を作った。キングサイズのベッドが二つ。城で見たベッドだ。あまり清潔とは言えない建物だが、仕方ない。
「メイド。メイドってば」
ふて寝して狸寝入りをしたようなメイドに俺は、「ベッド作った。疲れたから俺も寝る。付き合え」と寝たふりをしている彼の腕を引っ張り、無理やり車から降ろした。それでもなおツンとした表情のメイドは、「誰でもいいくせに」と不満を漏らしている。あのなあ……。
「汚い家ですね」
「仕方ないだろ。野盗の家なんだから」
ワンルームの様な狭い室内にベッドを二つも作ったせいで、よけい窮屈だ。だが俺はメイドをベッドに寝かせ、そのベッドに俺も入った。すると背後から人の気配を感じ振り返ると、エレンが「あ、あはは」と愛想笑いを浮かべている。だが「何か?」と地獄の冷気の様なトーンで彼女に問いかけたことで、逆再生の様にエレンは隣のキングサイズのベッドに入り、「シクシクシク」と泣いている。
ああもう! 俺はベッドから起き上がり、アイテム欄から彼女の父母を取り出し、彼女のベッドに向かわせた。そして隣のベッドの声を無視し、「寝るぞ」と無理やりメイドの体に抱き着いた。エレンに見られるのは恥ずかしいが、こいつが怒ったら面倒だ。せめて少しでも見られたくないからと、俺は布団を頭からかぶって、彼に抱き着いて目を閉じた。ネコミミに聞こえる勝ち誇ったような、彼の小さな笑い声。もう一方でエレンが小さい声で「何か違う」という不満の声。そんな声が耳に残る就寝となったせいか、翌朝、どうも体の疲れが取れなかった。
翌朝機嫌を良くしてくれた艶のある表情のメイドと、恨みがましい様子のエレンが俺をじっと見ている。家を出たら、俺たちを警護していたように、オオグモが扉の横にじっと座っていた。そうか、見張りをしていてくれたのか。前足を二本失ったオオグモの大きなお尻を撫で、俺は彼に「ありがとう」と告げてアイテム欄に戻してやった。すると彼はアイテム欄から消滅してしまった。あれ、もしかして欠損した場合消えるのか? うーん、なんだか複雑な気分だ。こんなことなら戻さなければよかった。だがそうも言ってられない。俺は彼の残してくれた、生き残りの野盗に話しかけてみた。
本来ならオオグモ以外にもメイドが足を打ち抜いた奴がいたはずだが、消えていた。あれ、素材になったっけ? まあいいや。俺は衰弱している盗賊をたたき起こし、アイテム欄からコンドルとラプター王を呼び出し尋問させた。
あっという間に話してくれた彼は、仮病だったようだ。
「ありがとう」
俺は全てを語ってくれた彼に礼を言い、コンドルに彼を素材にさせた。順調順調。
俺は彼らをアイテム欄に戻し、吐き出させた情報を精査する準備をした。だがその前に、カグヤを発見しなければならない。昨晩手に入れた素材を六つほどウルフマンに生成し、さらにもう一体をカグヤとして生成させた。
「探してこれるか?」
俺の問いかけに飼い犬のごとく従順な表情を見せるウルフマンたちに後を任せ、現在目の前にいる偽のカグヤの状態をエレンに鑑定させた。すると「衰弱しています……」と偽のカグヤを心配している。ダメもとで詠唱を唱えて回復スキルのヒールを発動するも、偽のカグヤは一向に快調へは向かわない。
「本体とリンクしているから、偽物を治しても無意味なんだろうな。まあ生きているってことだろう」
もし死んでいたら楽なんだが……まあこれをエレンに言ったら怒りそうだな。黙っておこう。
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