第42話 お宝発見! さすが盗賊の村
「ここは……」
見すぼらしいあばら家が並ぶ町だ。民家しかなく、商店や宿屋の気配は無い。この暗さじゃ、皆寝ているのだろうか。人の気配を感じない町にたどり着いた。茅葺の家が並んでいる。出会うものと言えば、野犬くらいだ。だがそんな野犬も街道をゆっくりと走るワゴン車のハイビームの明かりを浴びて、情けない声で鳴いて逃げていく。エレンも背後のミラーを眺め、人の気配を探していた。すると「あ! 人!」と声を上げた。マジックレンズをかけたエレンがこちらに振り向き、「人がいました!」と慌てて俺たちに報告してくれた。どうやらマジックレンズで人がいるかどうかを鑑定していたらしい。確かにそれなら発見しやすそうだ。一種の暗視ゴーグルのようなものか。暗視ゴーグル? そうか。その手があったか。
俺は先ほどの黒こげの死体を三つ消費し、双眼鏡の様な形をした暗視ゴーグルを二つとライフルを一丁作った。そう、夜間に人を発見するのに、これほど優れたものは無い。作ったゴーグルを一つレディに手渡すと、彼は車を止めてそれを受け取り、続いてライフルを一丁受け取ってから車を降りた。俺もそれに続きゴーグルを装着し、車を降りる。続いてエレンも少々慎重な面持ちで、車を降りて俺たちに寄り添うように近寄ってきた。闇夜で視界不良な時は、獣人たちに頼るのが一番だ。俺はウルフマンを三体スキルで生成し、俺たちを守らせるように配置させた。槍を持つ彼らは狩人の様に槍を握り、息をひそめ、自慢の鼻で気配や匂いをかぎ分けている。
「おやおや……気配を隠すのがお上手で」
メイドも独り言をつぶやきながら、いきなり暗闇に向かって発砲した。その音の方向を慌てて振り向くと、茅葺の屋根からゆっくりと人の様な何かがどさりと音を立てて転がり落ちた。続いて二発、三発と屋根や家屋めがけて発砲し、的確におそらくだが人間たちを始末していく。その結果、隠れていた人間たちが覚悟を決めたように雄たけびを上げて俺たちに突撃してきた。そんな彼らをマジックレンズ越しに見たエレンが叫んだ。
「この人たち、盗賊です!」
「ええ。どうやらここは、野盗の巣です! レディ!」
メイドもエレンの言う通りだと、数発ライフルを発砲しては新しいマガジンに瞬時に弾倉交換を終え、発砲を続ける。周囲の野盗たちは手に何か武器を握り、「火縄銃に恐れるな! 四方から襲い掛かれ!」と叫んでいる。
その声以外にも暗視ゴーグル越しに周囲の人影を感知し、俺はウルフマン以外にスキルでオオグモを2体生成させた。突然現れたあばら家ぐらいの大きさのオオグモを前に、数人の野盗がしり込みしたように動きを止めた。その隙を見逃さず、オオグモは口内から射出する粘着性のクモ糸で彼らを絡み取った。
「ウルフマン‼」
メイドを中心とした部隊に戦闘を任せていると、俺の声に反応したウルフマンは徒党を組んで襲い掛かる人間たちに対抗するように集団で攻撃を仕掛けた。だが予想外なことに、数人を倒した後にウルフマンたちが逆に返り討ちにあってしまった。オオグモは無事だが、正直、人間たちがウルフマンを倒せるとは思ってもいなかった。だが視界が悪い……。仕方ない。俺はゴーグルを外し、メイドにも「火を放つ」と声をかけた。その言葉に彼もライフルを撃つ所作をやめ、俺たちの方へ駆け寄ってきた。
「レディ様、何を……」
「黙ってろ。頼むぞ、カグツチ」
生者に命令できるかは不安だったが、俺は周囲を明るく出来る火の神カグツチをアイテム欄から呼び戻した。まるでキャンプファイヤーのように、彼の周囲だけ煌々と明かりがともされていく。そのおかげで視界が良好になり、暗視ゴーグルも不要になったためエレンはゴーグルを俺に手渡してきた。俺もそれら暗視ゴーグルをアイテム欄に収納し、後のことは彼に任せた。無言のカグツチがただ黙って、無謀にも近づいてくる若い盗賊に手をかざし、まるで魔法を使うように手のひらから渦上の炎を射出した。その炎を真っ向から浴びた盗賊が、炭化したように地面に崩れ落ち、ぱらぱらと粉上に体を崩壊させていく。一直線時に射出された炎の渦の中から、俺の身長ほどの一本の長刀が現れた。その長刀は刃が無く、代わりに赤い炎がゆらゆらと刃の代わりにきらめいていた。
「本物だ……」
「か、カグツチ……」
「そ、それにあのカグツチを操る女、まさかカグヤ姫か!?」
好き勝手に感想を漏らす盗賊たちの声が、次々に俺のネコミミに入っていく。ちょっと待て。誰がカグヤ姫だ。俺はあんなにちんちくりんじゃない。
「お、親分に……ひげっ」
親分と呟いた野盗の足を、メイドが間髪入れずに打ち抜いた。そうか、あいつを捕虜にするか。なら後はいらないな。俺は炭化した彼を素材として収集し、カグツチに「あとは任せた」と彼の肩にポンと手を置いた。彼のあふれ出ん憤怒が俺の手に伝わったように、彼の肩はまるで鉄板の様な熱を発していた。
長刀を取り出した。
そして一気に逃げ惑う盗賊たちを、薙ぎ払っていく。炎の刃に焼かれたものは漏れなく全身火だるまになり、黒焦げの焼死体と化している。カグツチの猛攻を前に、オオグモたちですら手持無沙汰になり、クモ糸で拘束した野盗たちの顔に糸を垂らしたりして遊んでいる。だがそんなオオグモの頭を一刀両断する男が現れた。
「なんて様だ……それでも大盗賊マムシ様の部下か!? 情けねえ!」
カグツチの扱う長刀に負けない長さの、青く幅広の刀身を持つ斬馬刀を肩に担いだ男は、その名前の通りに蛇の様な細い目を持ち、狡猾そうな無骨な表情で部下たちを叱咤している。仲間を襲われた残るオオグモも彼にクモ糸を噴射するが、彼は難なくその糸を断ち切り、ふん!と斬馬刀を大きく横に薙いだ。するとオオグモは前肢が綺麗に切られ、バランスを崩して倒れた。
「大層な仲間を持ってるじゃねえか。妖術使いか?」
「その刀……その刀ぁ!」
「へっ、さすがのカグツチ様も、この刀は知っているようだなア!」
喋らないはずのカグツチが、感情をあらわにしてマムシの振るう斬馬刀を見て叫んでいる。だがこの盗賊たちの首領であるマムシはカグツチに一切ひるむことなく、斬馬刀を振り回している。その青い刃は数度カグツチの長刀の攻撃を受け流し、一歩も引けを取らない。
「無駄無駄! たとえ火の神だろうがなんだろうが、このマムシ様の宝刀、大蛤(オオハマグリ)は神をも凌駕する!」
「宝刀だと!?」
「おうよ! この斬馬刀、大蛤は、最強の武器! たとえ火の神だろうが、敵じゃ、ねえ!」
オオグモを切った時の様に、カグツチに対して大きく薙ぐように切り付けるマムシの攻撃に、悔しそうな表情でカグツチは距離をとるように後ろにジャンプした。そんなカグツチを凌駕したとでも言うように、喧喧囂囂と自信満々に「生きて帰れると思うなよ」とマムシは俺たちに向かって叫んだ。
「そうですか」
乾いた発砲音とともにメイドは感想を漏らし、「最後の一発でしたが、丁度使いきれました」と銃口から煙を吐くライフルを俺に返納した。見れば目の前に立つマムシの額に、黒い風穴があいている。それと同時に穴から這い出る赤い血が、彼の最後を物語ろうとしていた。だが撃たれたことに気が付いていないのか、マムシはよたよたとこちらに歩み寄ってくる。そして発砲したメイドに対して薪を割るような動作で大きく斬馬刀、大蛤を振りかぶった。
「おやおや、使い方がなっていませんね」
メイドはそう言って振り下ろされた斬馬刀の刃を片手で受け止め、彼の手から軽々と大蛤を奪い取った。そして刃ではなく柄を握り、「こう使うのです」と彼の胴体めがけて水平切りを放った。見事な太刀筋で切られたマムシは、まだ切られたことが理解できていない様子で「返せ」と呟いて胴体が地面へと滑り落ちていく。
「切ってこそ刀。ぶんぶん振り回したければ、枝でも振ってなさい」
素材となったマムシを見下しながら、メイドは大蛤に付着した彼の血を、ブンと振るって払いのけた。
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