第41話 神の子を救え!? 皇帝討伐開始!


 老婆が恐れ多いように、カグヤの正体を教えてくれた。それはすなわち、国家に対する反逆では?そう思っていると、爺が「あの子はこの火の国の神じゃ。あの狐耳、燃えるような炎を宿す頭髪、どれも本物の、この国を治めるカグツチ様の証じゃ」と俺たちにとってはまったく理解できない説明をしてくれた。えっと、ここは火の国で、神? 神がどうしてこんな場所にいるんだ? 俺の知っている神は、雲の上で悠々自適に暮らしているぞ? そう思っていると、老婆が俺のネコミミを指さし、「そなたのその耳を見た時、わが目を疑い申した。なにせ、獣の力を宿せるのは神か皇帝以外に外ならぬ故」平伏したように老婆がそういうと、爺も続いて「あの子、カグヤは突然ワシらの前に現れた。そして子宝に恵まれなかったわしらを、それはもう幸せにしてくれた。あばら家だった我が家も、カグヤが来てからこの通り、たいそう立派な家に住めるようになった。だが、そんなある日、カグヤの噂を聞いた皇帝が、我が家にやってきた。そして皇帝を一目見てから、あの子は変わってしまった」

「変わった?」

「人が変わったなんてものじゃない。おぬしらも見たであろう。あの子は昼は普通の愛らしい娘。じゃが夜になると、火の神になる。幼さも消え、あるのは衝動のみ。自分を罠にはめた皇帝の血筋を途絶えさせるために、夜な夜な神は皇帝を襲う。じゃが皇帝の使いと名乗る男たちが、カグヤを引き渡すよう言ってきたのじゃ」

「寝込みを襲って打ち首とかか?」

「皇帝はカグヤの特異な体に目をつけ、いや、カグヤに宿る神の力、カグツチをよこせと言ってきた。それはつまり、カグヤを嫁に差し出せという意味に他ならない」

 平伏したまま、ちらりと面をあげて俺たちの後ろに立つ無言のカグツチを見て、彼らは言葉をつづけた。自分を襲う相手を嫁にしたいとか、随分酔狂だな。

「じゃがカグヤはもちろん、カグツチの皇帝に対する復讐心は強い。断りに断った。じゃが皇帝も愚かではない。それを利用し、夜にやってくるカグヤを幾度も罠にかけようとしておる。じゃがカグツチの力は生半可な力では捉えるのは難しい」

「利用?」

 俺が問いかけると、メイドが話に割って入り、「昼間襲われたのはそれが理由ですか」と腑に落ちた様子で彼らに話しかけた。すると老婆が「そうじゃ。昼間はあの通り無垢な子供ゆえ、その状態なら攫えると踏んでおるのじゃ」「

「攫ってしまえば、昼間は女性。やりようはいくらでもある」

 そう言ってメイドは隣に立つエレンを見てから、後ろに立つカグツチを見て笑った。

「夜は益荒男神、昼は子を宿せる母体ですか。逆なのが興味深い」

 何が逆なんだ? メイドの言葉に気になりつつも、エレンが「おぞましい……ですわ」とメイドの視線や皇帝の所業を聞き、寒気を覚えた様に、自分の体を抱きしめていた。

「じゃから夜に、あの子は皇帝を殺しに行く。じゃが、皇帝の持つ刀がそれをさせんのじゃ。あの刀はこの国を守る刀……どんな蛮行があれど、現在この国を治めている王を襲うのはすべて逆賊。神であるカグツチも、その刀の前では皇帝を切ることははばかれる……うう」

 そこまで言って憐れむように泣き崩れてしまう老婆を、夫である爺が慰めている。するとまるで泣き落としをするように彼らが俺たちに改めて平伏し、「国ではなく、娘を、愛しい我が娘をお守りくだされ」と懇願してきた。ううん、どうしよう。いかんせん面倒そうだ。その刀は興味はあるが、……。悩んでいると、エレンが何やら目に炎を宿らすように、「女性の敵!」と叫んだ。

「やりましょう。レディ様、メイド様」

 嫌悪しあっていたはずなのにエレンはメイドの手を握り、その後に俺の手も握り、皇帝討伐に出ようと声を上げた。

「こんな話を聞いて、黙ってはいられませんわ!」

 張り切るエレンに、策はあるかと聞いてみた。彼女は自信をもって、「ありません!」と答えた。まあ回復や後方支援担当だから仕方がない。だがその刀、興味があるな。神をも凌ぐ刀か。あれば便利かもしれない。いざというとき、メルクリウスに対する切り札になるやもしれん。

「わかった。行くか」

 俺の言葉にエレンは「さすがレディ様!」と俺に抱き着こうとして、その首根っこをメイドにつかまれた。ぐえっと鳴き声をあげたエレンに、「安易に抱きつかないでいただきたい」と苦言を呈するメイドは、顔を輝かせる老夫婦に「城はどこですか?」と問いかけた。すると爺が「しばしお待ちを」と言い、手を叩いて「誰か地図を!」と叫んだ。しばらくして足音とともに一人の召使が、巻物を持ってやってきた。

「ここじゃ……」

 写真ではなく手書きの絵のような地図は、町や大きな山が書かれていた。その地図の中の山を指さし、「この麓に皇帝は住んでいる」と俺たちに教えてくれた。せっかくだからその巻物をもらい受け、俺たちは星空が輝く外へ出た。門を出ると、門番たちが「お気を付けください! 夜は野盗が出ますゆえ」と俺たちを心配してくれた。

「星が明るいとはいえ、真っ暗だな」

「ええ。少し骨が折れそうですね」

 メイドとそんな会話をし、俺はアイテム欄から馴染みのワゴン車を取り出した。外装にこすり傷は多々あるが、運転に支障は無さそうだ。エレンが「レディ様たちの馬車ですわ!」と嬉しそうに声を上げた。だが傍に立つ門番たちが、な、なんだそれは! と恐れおののいている。おいおい、さっきまで気を付けろって言っていたのはアンタらだろうが……。こんな門番で役に立つのか?

「レディ、行きましょう」

 メイドが運転席に乗り、俺も助手席に乗り込んだ。エレンも俺の後部席に座り、「よろしくお願いいたします」と運転するメイドに頭を下げた。普段いがみ合っているのに、こういう時はきちんと礼を言うあたり、育ちがいいのだなと再確認させてくる。メイドはワゴン車のエンジンを吹かせ、ライトをハイビームにし、発進させる。

「言われなくても。飛ばします」

 アクセルを踏み、徐々に加速していくワゴン車。燃料は十分だ。俺たちはメイドが駆るワゴン車に乗り、安全な旅を開始した。だが町は遠く、灯りも全く見えない。だがしばらく走っていると、前方に何やら篝火の様な明かりが見えた。

「あれは……」

 メイドは俺の声に反応するように明るい方向へ車を走らせる。すると明かりの正体は、小火だった。俺たちは車を降りて、その小火の方へ近づいて妙なことに気が付いた。小火は燃え盛っているのに、周囲の草木に燃え移る気配は無く、俺たちが近づいたとたん徐々に鎮火していく。残されたのは性別も不明なほどに黒焦げになった死体が数体倒れているだけだ。その不自然な燃え方にメイドやエレンはもちろん、俺もカグツチの仕業だと気付いた。黒焦げになった素材を収集し、カグツチの方角を調べるために、素材探索のスキルを発動させる。

「あっちだ」

「了解」

 メイドにいくつもの素材の気配がする方向を指さし、薄っすらと闇を照らす方向に向かった。しばらくすると、小さな町にたどり着いた。

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