第24話 依頼達成。 エルフの秘宝ゲット!?
「よくぞご無事で」
村に入るや否や、エレンとメリーたちが俺たちが来ることを予期していたように村の入り口付近で待っていた。村の中では街灯代わりに篝火が焚かれている。よく見れば、村の住人達も全員だろうか、見たことのない獣人たちやエルフの子供たちが喝采するように俺たちの名前を叫んでいる。……様付けで。
「状況は城の私から伝わっておりました。おや、メイド様、お姿が」
「気にしないでください」
メイドはエレンの問いかけを軽く流し、答えない。そして俺たちを崇める様に名前を呼んでいる村人たちを、見渡している。俺も篝火だけでは奥の方まで見えないが、どこに隠れていたのか数十人はいる彼らの存在に、少しだけ驚いた。
「大型バスでも厳しいな」
「バス、とは?」
エレンは俺の言葉に反応し、尋ねてきた。だがまるでマネージャーのように、メイドが「大型のバスです」と代返する。その様子に「そうですか」と彼女は納得し、「可能であれば明朝から村を出て城へ向かいたい」と俺たちに要望を上げてきた。
「いいんじゃないか。徒歩になるだろうし」
オオグモを使うにしても、素材を大量消費するしかない。ん? 考えていると、のっそりと夜の闇に隠れる様に立っているJ1に気が付いた。もしかして、コンドルみたいにやれば良いのか? 俺は思ったことを行動に移せるか、エレンに質問してみた。
「エレン、この中に馬車を扱える奴はいるか?」
「え、ええ。私やエルフ族の者なら、大抵は」
「私も馬車の扱いなら長けておりますが、馬も荷車もありませぬ」
エレンも扱えるようだし、隣に立つ長い白髪を後頭部で団子の様に結んでいる、壮年の男性が手を挙げて前に出てきた。
「あんたは?」
「お初に。レディ様。私は姫様の警護を任されております、グイリンと申します」
騎士の様に俺に跪く彼の背中に、ピーターが使うよりも数倍は大きなロングボウと、その矢を収納する丸筒を背負っている。
「昨日いなかったよな」
「ええ。昨日は姫に言われ、レディ殿が奴隷商人たちと出会ったといわれる森を、探索しておりました。奴隷商人を生かしておいては、我らにも危機が及ぶ故」
「私の指示です」
エレンは彼をかばうように、間に割って入ってきた。別にそこまで興味はないから良いんだが、そうだ。宝‼ 宝くれ宝! 俺は欠食児童のように、すこしがっつくように彼女に尋ねた。
「約束の品、貰えるか?」
「ええ。勿論でございます。こちらへ」
エレンはそう言って俺の手を取ると、俺たちを城の方へ案内していく。その光景に獣人たちはもちろん、同じエルフであるグイリンまでも驚いている。メイドにどうしたんだろうかと問いかけても、さすがの彼もこちらの風習は詳しくないようだ。興味なさげに、「不愉快な叫びです」と言い、エレンの手から俺の手を奪い取った。すると彼女は残念そうな表情を浮かべ、もう一度俺の手を取ろうとした。だがそれを阻止した彼は、「道は覚えています」と俺の手を握って城へと向かっていく。
「では空いたお手を」
氷の様な表情で接するメイドに、エレンも負けじと俺の空いた片手を握ってきた。そして結局、まるで俺が両者の子供になったように中心に立って城へ向かうこととなった。そんなことを想像していると、彼が「気持ち悪い想像しないでください」と吐き捨てるように俺に言ってきた。口悪すぎる。だが握る力が一切緩む様子がないことから、エレンに対し随分と警戒していることが伝わってきた。
「ようこそ、わが城へ」
エレンは大木の根城に入り、私室だろうか、簡素だが質のよさそうな木々が使われた家具がある部屋へ案内された。すると彼女は部屋の中心に正座するように座り込み、両手を合わせて祈りをささげている。
何といっているかはわからないが、スキルを発動するのとは違う、何か感謝を告げているような口調だ。すると俺がアステータス欄を表示させるように、何もない空間に2メートルほどの扉を出現させた。
一見するとただの扉しかなく、むしろ部屋の中心に扉を出現させてどうするのだと問いかけたくなる。だがエレンはそのドアノブに手をかけ、どうぞと俺たちを中へ案内してくれた。
なんてことだ。扉の先は、室内とはまるで異質の、ひんやりとした冷気が流れ込んでくる空間へとつながっている。エレンは先導するように先に入り、続いて俺。殿としてメイドが続いた。中へ入ると、どことなく冬の森のような澄んだ空気が流れている。そして見たこともない葉も幹も宝石のような輝きを放つ針葉樹が、壁の様に周囲で生い茂っている。この場所は一体……。しばらく歩いていると、小さなお墓が一つある開いた地にたどり着いた。
「父よ、母よ……」
エレンは墓を前に祈りをささげる様に、手を合わせている。するとエレンを歓迎するように、俺たちの周りに柔らかな風が流れてきた。
「ここはどうやら、王族の墓のようですね」
メイドが俺に対し、そっと耳打ちしてくれた。ここが墓か。確かに静かだし、荒らされる心配もない最適な場所かもしれない。
「エレン、ここはお前だけしか?」
「ええ。私や王族、それ以外だと、我々が認めたものしか入れませぬ」
我々? 我々って誰だ? そう聞こうとした矢先、突風が俺とメイドに襲い掛かってきた。その風が俺たちの体を貫く様に過ぎ去ると、墓の前に半透明なエレンに似た妙齢のエルフや、グイリンよりも年老いていそうだが、眼光衰えず威厳のありそうな髭を蓄えたハンサムなエルフが並んで立っている
敵か? 俺とメイドは戦闘準備に入るように、警戒態勢に入った。いつでもスキルを発動できるように、準備は怠らない。すると目の前のエルフたちがにこりと微笑み、まるで燕の様に高く飛び上がった。そして姿かたちを風の様に変化させ、螺旋を描き舞い降りてくる。敵意の感じられない彼らの動きは小さなつむじ風を作り、ひゅるひゅると音を立ててゆっくとエレンの両の手のひらの上で姿を消してしまった。
「王家の秘宝、約束のクーリンディアでございます」
エレンは手の平の上に現れた全身エメラルドのようなクリスタルで出来た弓を持った男の彫像を見る。その表情は決心したというより、どこか晴々とした様子だ。にこりと微笑み、どうぞと俺の手にそれを手渡してくる。
「我がエルフ族の繁栄を願う神であり、王家の守護神でございます」
まさしくその輝きは、エルフの秘宝と言うにふさわしい品だと直感した。
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