第23話 ミニスカメイド誕生! 女神からの贈り物? 

 そんな彼らにも城を託し、俺はメイドの運転するワゴン車で城下町へと向かった。にしてもスキルで作った車は便利だな。燃料も素材で代用できるなんて。車の給油口が掃除機の様に素材を吸い込んでいくのは、ちょっと爽快だった。俺はメイドの運転を横目で見ながら、彼とのドライブを少しだけ楽しむことにした。他愛ない会話をしている間に城下町につくと、まだ日が赤く沈みかけている程度の時間だと気が付いた。

「あっという間だったんだな、あの城の中での出来事」

「当たり前です。さしたる障害もありませんでしたし。それよりレディ、衣服を買いたいのですが」

 ああ、そういえば血で汚れたままだな。てか城で入手すればよかったな。そう思っていると、メイドは店で選んでほしいと俺に真顔でおねだりしてくる。俺は今着ている服と同じものをスキルで作ろうとすると、「丁度よいのでこちらで見繕いましょう」と人通りも気にせず道の真ん中に車を止め、車から降りた。

 エレンの血にまみれたエプロンや頬を見て、どよめく町民たち。そんな彼らをよそに俺は、そそくさとアイテム欄に車を収納する。本当に便利だな、この能力。そしてどよめく町民の中で、比較的俺たちに近い年齢の娘に俺は、「服屋はどこ?」と尋ねた。すると俺たちを魔法使いか何かだと勘違いしたのか、スラム街を思わせる細い路地の奥にある、古ぼけた店に案内してくれた。

「普通の店で良かったんだけどなあ」

 独り言を漏らし、古ぼけた木の扉を開けて店に入ると、薄暗い室内を蝋燭1本で照らしている光景が目に入る。鏡一枚なさそうな、あっても薄暗いせいで意味をなさなそうな、明らかに服屋とは程遠いこの店はいったい何屋だろう。そう思っていると、奥から聞き覚えのある若い女性の声が聞こえてきた。

「楽しそうだねえ」

「メルクリウス。どうしてここに」

 部屋の奥から手にランプを持ちながら現れたのは、やはり見知った女性だった。ランプの明かりが照らす、彼女の豊満な谷間を強調した扇情的な赤いドレス。そしてそのランプを顔の方に持っていき、改めて俺たちに顔を見せた。黒髪の美女。自称女神、メルクリウス本人だ。彼女は久しぶりに親友と会うといった様子で、笑顔を俺たちに見せている。

「順調なようで何より。レディ」

 俺は彼女の名を呼ぶと、彼女は親し気に俺に挨拶を返し、ランプを捨てた。火事になる‼ そう思った矢先、彼女は指を鳴らして室内を一気に明るくした。一気に室内が明るくなったため、俺は思わず目をつぶってしまう。この世界じゃ不可能な明るさだ。なにせ夜もランプや蝋燭の明かりしか無いこの世界で、蛍光灯を使ったように室内を照らしているのだ。まるで隠す場所がないというように、部屋の隅々を明るく照らしている。目を開ければ、捨てられていたランプがどこにも見当たらなかった。

「欲しいものは分かっておる。これであろう」

 メルクリウスは長い黒髪を片手でかきあげてふわりとなびかせると、「あれを」と手を叩いた。その拍手を聞いて彼女の背後から現れたのは、無言の金髪のメイドだ。思わず俺は隣に立つ彼の顔を見てしまう。以前彼女に譲渡した、メイド15号だ。まさかここで再開するとは。驚く俺と対照的に、隣では苦虫を嚙み潰したような表情で、まるで嫌悪したように彼はメルクリウスの背後に立つメイドを見ている。その15号がが手に持っているハンガーにつるされているのは、彼が着用しているメイド服だ。ただ少しだけ違うのは、スカートが短いのだ。膝上くらいのスカートで、まるで格闘重視のメイドの動きやすさを重視したようなメイド服だ。

「お主の趣味に合うだろ? なにせ私が選んだんだ。なあ、へ」

 何か言葉を言おうとしたメルクリウスに対し、彼は有無を言わさずに15号からメイド服を奪い、その場で着替え始めだした。慣れた様子でメイド服を脱いでいく彼は、上半身裸になっていく。すると着替えを途中でやめて、俺の方へ振り返り、有無を言わさぬ圧力で命令してきた。

「着替えるので外で待っていてください」

 彼の傍らに立つメルクリウスは「私はもう少しボンとお話がしたいなあ」と言って、とんと彼の肩に手を乗せた。だがそれも手で払い、「黙りなさい」と彼は彼女にくぎを刺すように睨んでいる。まるで狂犬だ。

 仕方なく俺は店を出て、日が沈む夕日を見ている。スラムっぽい路地裏にしては、人の気配を感じない不思議な場所だな。臭くもない。もしかしてメルクリウスが何かやったのか? そう思っていると、がちゃりと店から着替えを終えた彼が出てきた。

「おお」

 トップスは特に変わり映えは無いが、いや、あれ、髪型変えたのか。長い金髪を肩くらいの長さでばっさり切り揃えた彼は、細くしなやかな髪の毛を指でいじりながら俺から視線をそらし、「どう、ですか?」と感想を聞いてきた。

 髪型を変えた彼の顔をまじまじと見ていると、城にいた時とは別人だ。まるで借りてきた猫、いや、その中性的に整った容姿にふさわしい様な、恥じらう乙女のような表情のメイドは、「まだ、ですか?」と言葉を漏らした。俺は彼を見る顔を下に向け、日焼け後の無い透き通った艶のある膝や、風にゆれて少しだけ顔を見せる太ももを見て、思わず声を漏らしてしまった。

 その声を聴いた彼が恥ずかしそうに膝上丈のスカートを握っている。俺は慌てて、「似合ってるんじゃないか? 髪もスカートも短くなって戦いやすそうだ」と彼の柔らかな金髪に触れて答えた。すると彼はじとっとした目つきで「エッチ」と俺に言い、俺の手を握って店を去ろうとした。え、店に戻らないの?

「要件はすみました。村へ向かいましょう」

 済んだのか? 結局メルクリウスとは会話できずじまいに終わった俺は流されるように、新たな衣装に身を包んだ彼に従い、ワゴン車で村へ向かった。運転中もやはりスカートが短いからアクセルやブレーキを踏みやすそうだなと見ていたら、無感情な声で「そういう趣味があったとは。脚フェチですか?」と変な誤解をされてしまう。

 結局俺はその後、彼の方を見ずに窓や前方を見て、他愛ない景色の話だけして、村までのドライブを過ごしていた。幸い鈍い馬車くらいしかいないこの世界では、対向車を気にする必要のない。

 俺たちは気にせずスピードを出して村へと向かっていく。道中森に入る必要があったが、スキルで作った車だから傷がつくのを気にしなくてよいため、最短で村へと到着することが出来た。

 あたりが完全に暗くなったあたりで、用心のためか篝火一つ焚いていない村へとたどり着いた。ハイビームに照らされ反射したJ1を確認し、エレンの村だと確信する。するとJ1の隣に立つ警備の獣人が、慌てふためいて村の中へ入っていく。俺たちはその様子に思わず笑い、車から降りて村へと入っていった。

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