第22話 神と崇めるよりも宝物庫の場所を教えて欲しい
ラプター王を倒すと、奴隷化していたダグラスたちも意識を取り戻し、疲れ果てた様子で床に座り込んでいる。エレンはそんな彼らの疲れをとるべく、彼らにヒールをかけている。その間に俺とメイドは、ラプター王以外の素材や、その場に落ちていた加護付きの武器を拾い上げてアイテム欄に収納した。王だけは素材として使いたかったので、そのまま放置してから再生成させる。すると心臓に空いた穴やもぎ取られた両腕を生やしたラプター王は、操り人形の様に無言で俺の方を見ている。生気のない彼にはもう少し働いてもらう必要がある。そう、奴隷解放宣言だ。以前にも奴隷商人や酒場の店主にさせたように、無駄口を叩かない彼は、俺の要望を快く同意し、俺に宣誓するように奴隷解放の宣言を行った。最後の仕事だからか、高らかに発せられたその言葉は、室内に響き渡る。宣言を終えた彼はまた物言わぬ傀儡の様に動かなくなり、静まり返る。そんな用済みになった彼をアイテム欄に収納し、今度はダグダ王を取り出し、彼の状態を確かめる。
「ピアスが消えていますね」
エレンがヒールで回復させていたダグラスやピーターの耳を見て、俺に報告をしてくれた。続いて俺もゲージに収納されていたダグダ王を取り出し、ふさふさな毛髪をかき分け、彼の耳を確認する。やはりピアスが消えている。これでダグダ王は、多少休息の必要はあれど無事だといえるだろう。
「これですべて、終わったのでしょうか」
ダグラスたちを癒し終えたエレンの問いかけに、俺はたぶんなとうなずいた。ホッとしたような表情のエレンが俺のそばに寄ってくると、地下牢の方から人影が現れた。
「君たちが助けてくれたのか?」
肩を貸しあいながらのそっと現れたのは、ピーターより少し背丈があるずんぐりとした人間たちだ。無精ひげや、伸ばしっぱなしでやぼったいくせ毛、をも、少し丸みのおびた大きな鼻を持つ、汗臭さい彼らが、覇気のない表情で階段をゆっくりあがってくる。その数は両手で数える以上だ。わらわら現れて、病み上がりのようなダグラスや、まだ意識を失っているダグダ王を見て叫んだ。
「王‼ それに王子‼」
ほうほうの体で倒れこむようにダグラスたちに駆け寄った彼らは、皆一様に跪ずき、涙を浮かべて嗚咽を漏らしている。そんな彼らの一人にエレンが、「ダグダ王も時期に目を覚ますでしょう」と肩にそっと手を置いた。
「生きておられる……生きておられるぞ!」
「そうです。すべて、すべて終わったのです。ドワーフ族の民たちよ」
「貴女は……エレンミア様か」
小柄な彼らはドワーフ族だったようで、その中で比較的高齢者のような一人が、恐れ多いと言った様子でエレンに質問をしている。その言葉にエレンは頷き、「彼らが助けてくれたのです」と俺たちの方を見た。するとエレンに続きドワーフたちが次々に俺たちの方を見て、膝をつき頭を垂れて両手を天に祈るように組んでいた。
「いや、大げさじゃ」
「大げさではありません」
俺の言葉を遮り、エレンが凛とした声で遮った。そして彼らに続く様に俺の方へ向かいなおり、片膝をついて祈るように傅いた。ララもエレンの真似をするように、傅いている。見れば回復したばかりのピーターやダグラスも、立てないまでも他のドワーフ族の様に、両膝をついて俺たちに頭を下げて神に祈るように、目を閉じている。
「今ここに、我々エルフ、ドワーフ、そして獣人族全てを代表して感謝を申し上げます。この暗黒から解放してくれたその神のごときレディの尊き行為に、我々は今一度、感謝を申し上げます。レディ、いえ、レディ様、メイド様。我々の神々よ……」
大げさな……。だが、奴隷解放はそれほどまでに彼らの悲願だったらしい。彼らは俺とメイドに感謝の祈りを捧げ終えると、喜び合うように互いの耳を触っている。ララも含め、すべての奴隷たちの耳から忌まわしきピアスが消えたのだ。それを夢じゃないと確認しあうように、彼らは互いに耳を触り幸せを共有するように抱きしめあっている。
改めてララも、周囲の情景からすべてが終わったと実感したのか、エレンの名を呼んで抱き着いている。ダグラスやピーターも同様だ。特にダグラスは生きていた実父の姿に、喜びの感情があふれだすように大粒の涙を浮かべてダグダ王を抱きしめている。その温もりを感じたからか、気絶していたダグダ王がゆっくりと目を開いて息子を見た。
「あの、盛り上がっているところ悪いんだけどさ、ダグラス」
俺は水を差すことを知りながらも、ダグラスに声をかけた。ダグラスは意識を取り戻した父に喜びつつも、「あ、ああ、そうだったな」と立ち上がろうとした。だが奴隷になった影響か、地下で何かあったのか、立とうとするとふらついてしまった。結局倒れそうな彼を俺は支え、明日もう一度報酬の話をしようと結論付けた。ダグラスも異論はないようで、しきりに俺たちに感謝を述べ、他のドワーフ族の肩を借りながら、城の他の部屋へと向かっていく。
「エレンはどうする? 村にいるエレンも、この状況なら迎えに行けるが」
「村の私もこちらへ来たがっているようです。ただ可能であれば、彼らを癒すためにこちらに残りたいのですが」
「わかった。じゃあエレンはここにいてくれ。ララもここで待っててくれ。エレン一人じゃ大変だろう」
ララはまるで新平の様に俺に元気な返事をし、エレンの後をついていく。そんな彼女たちを見送った俺とメイド+αは、ワゴン車を使い城から村へと向かうことにした。だが道中生き残りの敗残兵はまだいるようなので、結局+αであるウルフマンや悪鬼たち、そして追加で生成した悪鬼3組、オオグモ6匹を城の防人として放った。これで大丈夫だろう。
城の精鋭とやらも全て倒したし(メイドが)雑兵程度なら彼らで十分だ。さらに奴隷商人の屋敷にいた獣人やエルフたちも、少し焼け焦げた森から集団で城の方へ向かってきているのも目に入った。俺は彼らに事の仔細を伝え、城に続く桟橋を下したことなどを伝えてやった。そして可能なら、城にいる仲間たちの手当てをしてほしいと依頼すると、彼らは二つ返事で了承してくれた。見れば、自分の体よりも大きな布や革のリュックを抱えている者が多い。
俺は彼らにリュックに何が入っているかを尋ねると、彼らはためらいなくリュックの中身を見せてくれた。
包帯や薬のようなものが入った瓶がたくさん詰められている。他のものは軟膏や食料。野犬の獣人に限って言えば、「治療用」と称して高そうな酒瓶を山ほど詰めていた。思わず笑ってしまう。
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