第21話 メイドのダンスコンサート~殺戮舞踏会~ 


「聞いているのですか、ダグラス‼」

 エレンの問いかけに、ダグラスは生気のない瞳で「ら、ラプター王のために」と呟いている。自分の名前を城にしたのか、このおっさん。俺はラプター城の王、ラプターを見て驚いてしまう。みすぼらしい服装のくせに、ずいぶん偉そうだと思ったが……ん?

 地下から複数の足音が聞こえてきた。俺のネコミミがアラート音を感じ取るように、ぴくぴく動いているのが分かる。だがしかし、ダグラス達にもゴーズとメーズを預けたはずだが。ウルフマンやオオグモ含めて全滅したか? 人間にやられるとは思えないんだが。

「我が精鋭たちを舐めるな。本来牢獄でお前らを捕らえるつもりだったが、今ここで成敗してやろう‼」

 階段から駆け上がってきた兵士たちの手に握られている、様々な色の刃を穂先に宿らす武具。それはもしや……。

「ドワーフ族に作らせた、逸品中の逸品だ! それを選りすぐりの兵士たちに授けたのよ!」

 見せつける様にラプター王が、背後から現れた兵士の一人に「見せてやれ」と笑った。すると背後の兵士がダグラスが以前作った、炎の刃を持つダガーに似たブレードソードを壁めがけて袈裟懸けに振るった。その光景に、ララやエレンが驚いている。まあ正直俺も驚いた。レンガか何か堅そうな素材で出来た壁が、まるで熱したナイフで切られたバターの様にスパッと切れてしまう。

「そうか、その武器で」

 背後にいる兵士が、「この武器さえあれば、ゴーズやメーズなど敵ではない!」と叫び、背後から続々と現れる兵士の一人が握るゴーズとメーズの頭を見せつけた。うわぁ……。惨たらしい最期を迎えた俺の製品たち。

「ちなみにお前らは奴隷なのか?」

「馬鹿にするな! 我々は王直属の兵士‼ その忠誠心は本物だ。スレイブピアスなど不要だ!」

「スレイブピアスって言うのか」

「左様、我がスキルさえあれば、従えば繁栄を、逆らえば地獄を与えることなど造作もない。見よ、お前らの仲間もこの通りよ!」

 俺たちの仲間であるダグラスとピーターを尖兵、いや、壁の様に見立てて俺たちと対峙させるラプター王は高笑いをし叫んだ。

「貴様らに仲間を殺せるか? 見捨てることが出来るのか? 出来ないならば今すぐ我に従え。出来ぬなら構わぬ。奴隷にしてやろう! 兵たちによれば珍しいスキルを持っているようだしな」

「なんて事を……」

 エレンが嫌悪し、言葉を吐き捨てる。

「そこの娘は覚えているぞ。確か町の酒場の奴隷だな。逃げ出したか、今度は我の奴隷にしてかわいがってやろう。そちらのエルフの姫と一緒にな」

 ララとエレンを見て舌なめずりをする王は、もう完全にエレンたちを奴隷にできたつもりである。そんな王を見て、メイドが「いっそ殺しますか?」と俺に同意を求めている。いやいやいや、決断速すぎでしょ。だがメイドは考えを変えるどころか、「アイテム欄にいるダグラスじゃダメですか?」と質問を投げかけてきた。

「あ、そうか」

 俺はアイテム欄からダグラスを取り出し、王に見せつけた。その光景を前に、王は愚か兵士たちも驚いている。なにせそっくりな人間を無から取り出したのだ。

「こいつがいるし、そいつを殺しても問題は無い」

「お前それでも人間か‼」

 悪逆の王から罵倒を受けてしまう。だが、別に。ここにいるエレンもメイドも生成した製品だし、俺にとってはどれも一緒だ。メイドも同様なようで、「結論は出ました」と戦いの許可を今か今かと待って指を鳴らしている。だが予想外なことが起きてしまった。

「国王の、ために」

 俺が取り出したダグラスが、まるで鏡の様に本物のダグラスと同じような事を呟いたのだ。マジか……。え、連動するの? とんでもない誤算だ。生きている生物を生成すると、こんなデメリットがあるのか。

 目の前で敵となる偽のダグラスを見て、今度は王が高笑いをしている。仕方なく俺は彼をまたアイテム欄に収納し、王と対峙することとなった。

「貴様のスキルも完璧じゃあないらしい。だがとてもレアだ。その力、ますます欲しい。その美貌もそうだが、我も猫が欲しかったところだ。側近に置いてかわいがってやろう」

「死ね」

 俺は吐き捨てる様に王に向けてつぶやいた。だがそれがいけなかった。

「任務完了」

 まただ……。頭を悩ます、考えるより先にメイドは俺の傍から離れ、王の横に立っていた。その瞬間移動にも似た高速移動に、王の側近たちからもどよめき立っている。

「本来ならば、敵に捕らわれた仲間など殺してもよいのですが、レディは甘くて困ります」

「ま、待て……」

「待ちません。というか貴方、まだ喋られるとは」

 心臓付近に風穴があいたラプター王を見下しながら、彼は王の両腕をまるで大剣で断ち切るように、メイド服のスカートから伸びる美脚で切断していく。

「ウ、腕が……腕が」

 遺言を残すことなく息絶えてその場に倒れる王を見て、メイドは「あいにく王や神は私にとって嫌いな部類に入るので」と吐き捨てた。その光景を見た先ほど壁を切るパフォーマンスを見せた兵士の一人が、その熱されたブレードソードをメイドめがけて「王の仇‼」と叫びながら振り下ろした。

「メイド‼」

 俺は彼の背後から繰り出される攻撃を見て、叫んだ。だが俺のネコミミが、彼のため息を拾った。

「やれやれ。こんなおもちゃが何だというのです」

「馬鹿な!」

 ドワーフ族特製の刃を握りつぶされた兵士の叫びと俺の言葉がリンクする。刃が握りつぶされて鍔と柄だけになったソードを握る仲間を見た他の兵士が動揺して「化け物‼」と叫んだ。、

「やれやれ、私はただのメイドです。それを化け物ですか。レディ、あとは私がやっても?」

 こちらを振り向き、笑顔で命令を待つ。その隙をつこうとする兵士たちの槍や剣による攻撃を見ないで捌くメイドに俺は「無茶だけはするな」と告げるほかなかった。その言葉を聞いたメイドは、一瞬だがその美しい顔を悪魔のごとく笑顔へと変貌させた気がした。

 いや、多分変えただろう。俺のネコミミに、「ここへ来てから出番が少なくて困っていたのです。ああイライラする」と聞こえてくる。そこからはもう、メイドによるダンスコンサートが始まった。黒いメイド服を華麗にひらひらと揺らめかせ、リズムに乗るようにターンする。そのたびに羽織る白いエプロンが、敵の悲鳴とともに真っ赤に染まっていく。彼の前では、鎧や加護を纏った武具もまるで張りぼてだ。あっさり彼の手足に切り刻まれる、敵兵たち。忠誠心は本物なのか、逃げようとしない彼らは次々に素材と化していく。

 奴隷商人を倒した時から思ってたけど、メイドってこんなに強かったっけ?

「掃除が終わりました」とこちらを振り向く笑顔の彼の頬に、まるで食後の子供の様にケチャップのような赤い返り血がついている。俺たちはおろか、エレンやララも開いた口がふさがらない様子だ。こちらに歩いて戻ってくる彼を前に、彼女たちはびくりと背を震わせ、抱き合っている。そりゃそうだ。俺だって少し怖い。以前彼が俺に言った、「俺を守る」という発言が無ければ、逃げ出していたかもしれない。

「血なまぐさくてごめんなさい。レディ、後で着替えを所望します」

「そうだな」

 体に飛び跳ねた血を気にするようにボディチェックをしているメイドを、俺は抱きしめた。「お疲れ様。ありがとう」と労いを投げると、彼は敵に見せるような笑顔ではなく、至福の表情を浮かべて「レディのためですから」と俺の顔を見て微笑んでいる。

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