第20話 奴隷になった仲間たち? ラプター王登場


「レディ様? そんなことよりやれるか、エレン。お前のスキルが必要なんだ」

 俺の問いかけにエレンは優しく微笑し、事の次第を把握したようにゲージに収納されているダグダ王へ手をかざした。その動作は、彼女にとってスキル発動の合図。瞳を閉じてゆっくりと瞑想するように息を整えるエレンは、そのまま瞳を閉じたまま詠唱を始めた。

「光受け萌ゆる若葉の如し、春風を纏いて、そなたの心を癒せ。ヒール」

 エレンの手のひらから生み出された柔らかな風が、ゲージを包み込む。呻くダグダ王が徐々にだが、毛布に包まれた赤子の様に安堵の表情を浮かべている。見れば荒々しい呼吸も徐々にだが、寝入るような呼吸に変化している。

「これでとりあえずは安心かな。助かった、エレン」

 ダグダ王を再びアイテム欄に収納し俺はエレンに感謝を述べる。すると傍に立っていたララが、マジックレンズを外しては付けてを繰り返し、幻でも見ているかの様に「エレン、ミア様?」と言葉を漏らした。

「久しいな、少し大きくなったか、ララノア」

「あ、あ……」

 ララをララノアと呼ぶエレンに対し、ララはまるで生き別れの母に出会ったように、泣きじゃくりながらエレンに抱き着いていた。それに対し、エレンは慈母のようにララを受け入れ、「辛かっただろう」とそっと頭を撫でている。

「どういうことだ?」

「私たちには関係ない事です」

 メイドはそう言って、偽の国王を探すためにエレンに問いかけた。

「エレンミア、人間の王を探したいのです。協力しなさい」

「ええ。もちろん。レディ様はもとより、従者のメイド様に協力は惜しみません」

「従者じゃありません、パートナーです」

 メイドがエレンに反論するも、エレンも負けじと「では私もパートナーですね。レディ様」と俺の方を流し目でそっと見ていた。妙に色っぽい目つきに、メイドが舌打ちしている。まるで水と油だな。同じ金髪だし、仲良くすればいいのに。正確には濃いブロンドのメイドと、淡い金髪のエレンで色は微妙に異なるが。

「レディ様、ララノアは私の妹なのです」

「正確には、血はつながっていないんだけど」

 補足するように、涙で目を赤くはらしたララが教えてくれる。聞けばララは、幼いころに流行り病で親を亡くしてからエレンの庇護下に入っていたらしい。だが、信じられない言葉がエレンの口から飛び出てきた。

「それがおよそ50年前、そして10年前に彼女は森で山菜を収穫中に、姿を消した」

 エレンの言葉に、俺の頭に疑問符が浮かんだ。 今なんと? ていうか、ララ何歳? 俺がララの方を振り向くと、ララはだいたい八十歳くらいと俺に教えてくれた。は、八十!? 俺の四倍!? 驚く俺に対し、エレンが「我々エルフ族は長命の種族故、80歳は子供同然なのです」と教えてくれた。

「じゃあエレン何歳なの?」

 俺の問いかけにエレンは頬を染め、「女性に年齢を聞くのはどうかと……ですが、二人きりの時になら」と俺の手を握ろうとした。だがそれをメイドは阻止し、「年齢の問答など後になさい」と話を本筋に戻してくれた。

「そうだな。エレンはどうする? 一緒に来るか?」

 俺の言葉に「正気ですか!?」とメイドが叫んだ。俺としてはアイテム欄だろうがどちらでも良いんだが。エレンの方を見ると「是非」と頷き、ララと手を繋いでいる。見ればララもエレンの手を握り、傍を離れたくないようだ。何となく申し訳ない気持ちだ。何せそのエレンは、酒場で会ったダグラス同様、偽物なのだから。だがまあ喜んでいるしいいか。保護者としても、役に立ちそうだ。

「この後は?」

 エレンが俺たちに問いかけ、メイドが「地下牢へ向かったダグラスとピーターと合流します」と簡潔に教えてくれた。道中国王が見つかれば良いのだが、そううまくはいかないだろう。俺たちの周囲をウルフマンが囲み、鼻を鳴らして探索は続けているのだが。めぼしい成果は出ない。

「このマジックレンズで見ても、周囲にステータスや人の気配は無さそう」

 ララはエレンの傍にぴったりと寄り添いながら、ウルフマンと同じく周囲を見渡している。本丸からダグラスの下へ向かう途中、外で待機していたオオグモたちや悪鬼たちとともに城を下る俺たちの姿は、何も知らない人たちから見たら悪役そのものだろう。なにせモンスターや獣人を引き連れ、城を蹂躙しているのだから。人間兵は倒して素材に。亜人と称される奴隷たちはすべてオオグモの糸で捕らえる。それを繰り返し本丸から二の丸にたどり着き、地下へと続くっぽい牢屋への入り口にたどり着いた。

「この先だよな、牢屋へつながる道って」

 俺の問いかけにメイドが頷き、エレンも「私の記憶が正しければ、その通りです」と同意した。

 じゃあ行くか。そう思った矢先、地下から誰かが出てくるようだ。おっと、ダグラスたちか。俺は手を振り、彼らを迎え入れようとした。だがそれにメイドが待ったをかけるように、また俺の襟首をつかんで抱き寄せている。その止め方苦しいから止めて欲しいんだけどな。

「どうやら、こちらが正解だったようですね」

「……そうみたいですわ」

 メイドの言葉にエレンが同意する。その言葉が気になり、地下から階段を登ってきたダグラスたちを見たら、確かに様子がおかしい。というより、苦しそうだ。ゾンビの様にふらふらと歩く姿や、嗚咽を漏らすようなうめき声。

「あ‼」とララが叫んだ。まさか……。

「ダグラスさんやピーターちゃん、奴隷になってる‼」

 マジか……。てか奴隷になっているってことは……、ようやく俺もメイドの言葉の意味を理解した。そうか、やつらも俺たちを嵌めるつもりだったのか。一人納得していると、地下牢から拍手とともに一人の男が現れた。みすぼらしいぼろの衣類を身にまとう男だ。だがその眼光は鋭く、まるで肉食獣のようだ。白髪交じりの茶髪をオールバックで固めた、初老の耳にはダグラスたちと同じピアスが装着されている。

「国王を倒してくれたようだね。ありがとう」

 先ほどの拍手は感謝を表していると言うように、彼は恭しく俺たちの方へ頭を下げた。その姿を見た俺たち、いや、メイドがララに「あれは?」問いかける。ララも確信したように「この人、奴隷じゃない!」と叫んだ。

「まだ倒してないよ。王も捕らえただけだ」

 俺の言葉を聞いた初老の男は焦る様子は見せなかった。むしろ優位に立っているとでも言うように、「まったく、めちゃくちゃなやつらめ」と忌々しそうな口調で態度を翻した。

 敵意を明確に示し、宣戦布告をしてくる始末だ。ラプター城って言うのかこの城。説明ありがとう。そう思った矢先、エレンが彼の言葉を否定した。

「何がラプター城ですか! ここはダグダ王の城、ラプター城などという名前ではありません! ダグラス、正気に戻りなさい!」


 

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