第19話 敵はドワーフ族の王!? 奴隷にされたダグダ王
本丸へ向かう道のりは傍らにはメイドが抱きついたままなので歩きにくいが、ほぼ順風満帆といった快進撃だった。なにしろ、俺たちを見た敵たちがまず動揺しているのだ。隙が大きい。第二にピーターの存在だ。ピーターは俺(ネコミミ)並みに耳が良いので、敵の足音や気配を機敏に察知してくれる。最後に獣人や森の怪物たちの力だ。近くはゴーズとメーズ。遠くはオオグモ。彼らの攻撃をさばける人間兵は存在しない。
三の丸と二の丸を続く屋敷にたどり着いた俺たちの前に、また獣人たちが現れた。今度は奴隷たちのようだ。
ゴーズとメーズほどではないが、逞しい体の獣人や切れ長の瞳を持つエルフが大きな弓矢をこちらに向けて引いていた。
「悪趣味だなあ」
そう呟くと、彼らを率いているであろう老齢の部隊長が、手に持った鞭をふるいながら奴隷たちに檄を飛ばしている。
「貴様ら奴隷たちは今まさに、この時のためにいる‼ 我が国王のためにその命存分に捧げよ!」
その言葉に歯がゆそうな奴隷たちは態度とは裏腹にこちらに一斉に攻めてきた。あの部隊長っぽい爺さんが、あいつらの主人なのか? そう思いながら、メイドに声をかけてみたら「おそらく違うでしょう」と俺の考えを否定した。だよなあ、あの爺さんの言い分じゃ、彼らの主人は国王だ。俺は悪鬼たちが盾代わりに頑張ってくれている間、どうしようと策を練った。だが結局彼らを助ける方法は見つからず、オオグモたちを生成して生け捕りにするしかなかった。
死なれては困るから、奴隷たちをひとまとめにして巨大なゲージに詰め入れることにする。これは俺の考えだ。ピーターの話だと、アイテムとして収納されている間は苦しくもなければ快適でもない、無の空間らしい。
「ふう、一仕事を終えた俺たちは、三の丸の壁を伝って遊んでいるようなオオグモたちを見上げた。
「なあメイド」
「どうしました?」
「俺当たり前に国王側の人間殺してるけど、良いのかな」
素材となった部隊長や、これまでであった彼らを思いながらふと疑問を投げかけた。「いいんじゃないですか?」とメイドは肯定した。そんなあっさりと肯定されると、悩むのが馬鹿らしいじゃないか。
「後悔しようが、やりたいことをやれば良いのです。あの時の様に」
「あの時?」
「レディ、いえ、貴方は貴方の思うように生きてください」
そうか? 一瞬言いよどんだような彼の表情を感じつつも、彼は俺の手をひいて二の丸へと向かっていった。仲間のドワーフが心配なダグラスが、地下牢へ続く道を見つけて俺たちに、「仲間を救出したい」と頭を下げてきた。
「別にいいけど一人じゃ無理だろ」
手に握る敵から奪ったブレードソードを握っているダグラスの決意は固そうだ。行かせてもよいが、万が一死なれたら財宝の位置が分からなくなる。俺は仕方なく、彼にピーターと新たに生成したオオグモたちと悪鬼たちを一組預け、本丸へ向かうことにした。
「ララはどうする?」
ピーターか俺たちどちらにつくか迷いつつも、彼女は俺たちの方を選んだ。少し嫌そうなメイドは口を歪ませているのに気が付いた。だがしかたないだろう。それに役に立つかもしれない。
ここで俺たちは分断作戦をとることにして、真っすぐ2の丸を攻略することにした。道中の敵はゴーズとメーズに任せ、壁を伝って俺たちは一気に本丸へと到着する。敵も想定外だったのか、ほぼ攻撃を受けることなく、攻撃されたとしても新たに生成したJ1により薙ぎ払われてしまっていた。
「ここが王の間か」
挨拶なく扉を開けると、室内の輝くような調度品や、過去の王族だろうか、似たような顔の男性の似顔絵が、金の額縁に一枚ずつ飾られてあった。部屋の奥に天井にまで届きそうなほどの背もたれを持つ、高級そうな白い椅子があり、そこに厳かなマントや大きな金の王冠を被った、白雲のようなふわふわした髪を持つ老人が座っている。王様だろうか。
「忌々しい」
低くしゃがれた声で王様っぽい男は呟き、手に握っていた杖の先を俺たちに向けてきた。その動作はどこか緩慢で、生気が感じられない。
「わが城をここまでめちゃくちゃにしおって……」
「いや、お前の城じゃないだろ。あと奴隷たち解放しろよ」
「黙れい‼」
立ち上がった王様は、部下もつれずにふらふらと立ち上がり、その杖を俺たちめがけてぶんぶん振り回している。本当に王様か? 俺は疑問を持っていた。あ、そうだ。俺は素材を消費し、スキルを発動する。「レディメイド、マジックレンズ」よし、出来た。俺は作り出したエルフ専用装束、黒縁眼鏡のマジックレンズを、ララに装着させた。これは相手の情報を知ることが出来る、便利なアイテムだったはず。
「何が見える?」
「え、えっと……ダグダ? こ、この人ドワーフだ!」
ララがマジックレンズを装着したまま、ただ見たままを叫んでいる。
「ダグダ王、瀕死、奴隷? こ、この人も操られてる!」
やはりそうか。俺とメイドはその言葉を聞き確信した。この国の王は、どこかに隠れている。そうなればここは殺害ではなく、制圧を目的に戦うことにした。目の前にいるマントや装束は立派でも中身はボロボロなドワーフ族の王、ダグダを確保するように戦わなければならない。そう考えた矢先、ララが「ダグダ王が動くたびに体力が減ってる‼ このままじゃ死んじゃう」と叫んだ。まずいな、それにこれでドワーフ族が協力していた理由が分かった。王を裏で生かしておいてたってわけか。そりゃドワーフ族は従うしかない。何せ人質が王や王子なのだ。俺もまともな職を歩んできたわけじゃないが、さすがにこれ以上この状況に付き合うのは悪趣味だ。俺はウルフマンを六人生成し、王を捕えることに成功した。その王をピーターをとらえていたゲージに収納させ、アイテム欄に収納。これで最低限の生命は維持できるだろう。
「さて、王探しだな」
屋敷全体やまだ漁っていない城内を虱潰しに探さなければ。どうやって探そうか。鼻のきくウルフマンを使うのも良いが、この広さだ。今まで作った製品をアイテム欄のカタログでチェックしながら、良いアイテムが無いかページをめくっていく作業に入った。だがそれにメイドが待ったをかけた。
「まずは合流しましょう。あと、ダグダ王を回復させるのはいつにします?」
「回復? できれば奴隷状態から治してからがベストだけど」
「死んでしまっては元も子もありません。苦肉の策ですが、彼女を生成できませんか?」
「彼女?」
俺の問いかけに、メイドが「あのエルフの姫です」と答えた。ああ、なるほど。ダグラスと同じね。
「レディメイド」
素材の一体を消費し、俺は屋敷であったダークエルフと似た耳を持ちながら、清楚さを漂わせる白磁のような肌を持つ金髪のエルフを生成した。そう、森の村で出会ったエルフの姫、エレンミアだ。それに合わせて、捕まえていたダグダ王を閉じ込めたゲージを再びアイテム欄から取り出した。
「またお会いできて嬉しいですわ。レディ様」
まるで俺を神に見立てる様に膝をつき、祈りをささげるエルフの姫は、祈りを済ませると嬉しそうにこちらを見て笑っている。その横には不服そうに腕を組み、いらだつように指で腕をトントンと叩くメイドが立っている。どうしてこう仲が悪いのかね。少しは仲良くすればいいのに。そんなことを思っていたら、メイドがきつい表情で俺を睨んできた。困ったもんだ。またナチュラルに思考を読まれた。
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