第18話 ボーナスタイム


 ダグラスは驚いたように彼らについて、解説している。

「あいつらは親父が国王だった時に、放逐されたんだ。あまりの暴虐非道さで同族はもちろんエルフにも迷惑をかけていた。だから俺たちドワーフ族やエルフ族や獣人族、森の獣たちも総動員してこの国から追い出したんだ。とんでもないやつらだ」

「ほう、そんなに強いのか」

 俺は彼らを見て、感想を漏らした。すると牛頭のゴーズがすごいのは力だけじゃねえぜと笑っている。それに同意するように、馬頭のメーズも「俺も兄弟も、下半身は暴れん坊だ」と下品に笑っている。

 舐めまわすように俺やメイド、ララを見る彼らに同意するように他の兵士たちも笑っている。なら今のうちに笑っていろ。

「レディ、ここは俺が囮に」

 ピーターが率先して背中に背負っていた弓矢を手に取り、ゴーズめがけて矢を放った。だがその矢を避けもせずに受け止めるゴーズの肉体は、まるで鋼で出来ているかのように、矢を通さなかった。驚くピーターが、「これが、でも、勝てない」と一人納得して絶望していた。対して高笑いがさらに強まる獣人たちは、「雑魚はどいていな」と兵士たちを後ろに下がらせた。

「そうだな。どけ、ピーター」

 俺も彼らの言葉に同意し、ピーターをつかみ上げ、ララに手渡した。ララはぬいぐるみを抱くようにピーターを抱き、心配そうに俺の名前を呼んでいる。なに、心配するな。ストックは減ったが、ここで補充する。

「メイドも手を出すなよ。無駄な争いは避けたい」

 俺の言葉に渋々同意する彼は、ダグラスやララを守るために後ろに下がった。

「良い心掛けだ。ぼろぼろの女をやるのは趣味じゃねえ」

「ぼろぼろにするのは好きだがな」

 相変わらず下品な獣人を前に、俺も「せいぜい今のうちに笑っていろ。俺もちょうど、お前らがほしかったんだ」と返答した。するといくらでもくれてやると喚く獣人たちの姿に、俺は感謝を込める意味で、言葉を続ける。

「そうか、楽しみだ。何、すぐに終わらせてやる。ステータスオープン」

 俺が何もない空間から素材を四つ、地面に落とした。その光景や、地面に落ちた素材の一部に見覚えのある鎧を着た兵士たちがいたことに兵士たちが気が付き、ゴーズ達の傍にいる兵士たちに動揺が走ったようだ。「スキルか!?」と驚くゴーズを無視し、「レディメイド」と唱え、彼らの前に鏡の様にそっくりな2対の獣人を生成した。その光景に動揺した様子のメーズが自分そっくりな獣人に対し、手に握る金棒をふるった。だが鏡の様に自分そっくりな獣人が金棒を振ってきたことで、動揺はさらに増しているようだ。火花を散らす金棒のつばぜり合いを横目に、もう一体の自分そっくりな獣人が、彼の腹部に金棒をふるった。

 腹部にめり込む金棒の威力はすさまじく、見る見るうちに苦悶の表情を浮かべていく。膝をついてしまうメーズに対し、欠片の慈悲も見せない俺のメーズ達は、まるで太鼓をたたく様にリズミカルにメーズを血まみれの肉塊へ変えていく。

「ぼろぼろになるのが好きなんだろう? 兄弟」

 俺の問いかけに頭に血が上ったようなゴーズだが、

「兄弟‼」

 叫ぶゴーズは救援は不可能だとすぐに悟った。メーズと同じく目の前には自分そっくりな獣人が2体も無言で立っているのだから。まして、兄弟そっくりな敵がさらに2体もいるのだから。観念したのか、両手を上げて降伏の意志を示している。

「参った。俺は奴隷じゃねえ。雇われているんだ」

 自分語りをする彼に対し、俺は微笑んで返答して上げた。

「言ったろ? ちょうどほしかったって」

 理解できていないゴーズだが、俺に問いかける前に意識を失った。正確には、しゃべる口は愚か頭部をつぶされたのだ。4体の悪鬼の手によって。

「さて、ひーふーみー……十。最高だな。雨雲分以上は回収できそうだ」

 十人以上いるため、数えることを放棄した俺の目の前にいる素材たち。いけないなあ、素材のくせに逃げようなんて。そうはさせない。こちらもお前たちのせいで、無駄に素材を使う羽目になったんだ。利子をつけて返してもらおう。

 俺が一歩前に歩くと、兵士たちの一人がしりもちをついた。恐怖が連鎖したように、手に握る武器を落とし、俺を中心に左右の素材たちめがけて巨体を走らす悪鬼たち。阿鼻叫喚を響かせていく中、メイドたちの方へ俺は振り返った。

「さあ、行こうか」

 死体一つない血まみれの道を歩く俺と傍を歩くメイドを見たピーターたちは、数テンポ遅れて慌てて俺たちについてきた。ララは吐き気を催しているのか、気分が悪そうに口を手で抑えている。やはり刺激が強いのかもしれない。「ララ、帰るか?」と問いかけると、ララは慌てた様子で勢いよく左右に首を振っている。

「レディ、私は構いませんが、それは脅迫に近いかと」

 メイドがしずしずと俺の横を歩き、声をかけてきた。脅迫? ああ、まあ、そうかもな。「悪いな、ララ」謝る俺に対しても、ララは引きつった精一杯の笑顔で「大丈夫です!」と返事をしてくれた。その横でダグラスやピーターが、前後を歩く悪鬼を見上げながら「本当に規格外だな……」とぼそりと呟いている。そのそばにいるピーターもララの手をモフモフな手で握りながら、「敵じゃなくて本当に良かった」と震えた様な声で独り言をつぶやいていた。

「ピーターの手いいなあ」

 柔らかそうで、俺も手を握りたい。そういう意味で言ったのだが、ピーターは変な悲鳴とともに固まってしまった。もう、しょうがないなあ。俺は固まるピーターを抱っこし、城までの道を登っていく。ピーターの体から生える柔らかな毛が顔をくすぐり、どことなく気持ちが良い。ただぎゅっと抱きしめると、悲しそうな声で「食べないで食べないで」と懇願してくるので、泣く泣くララの傍にピーターを戻してあげた。

 思わずため息を漏らしていると、メイドが俺に抱き着いてきた。どうした?

「……手持無沙汰だった様なので」

 少し照れているような表情の彼に、俺は「あ、そういうことね。ありがと」と彼の頭を撫で、大丈夫だからと告げた。だが彼は数秒間俺の言葉が聞き取れていないのか、俺の胸に抱きついている。マントの獣臭いのが好きなのだろうか。

「違います」

 ナチュラルに思考を読まれる恐怖から目をそらすように、俺たちは城の本丸を目指し続けた。

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