第17話 城を守る悪鬼ゴーズとメーズ登場
「見えた!」
俺は鎧兵たちめがけてオオグモに糸を吐くよう指示を出した。指示を受けたオオグモは大きく口を開き、槍のような太さの糸を射出する。それを浴びた兵士たちが、トリモチに捕まった害虫の様に、地面に張り付けられてしまう。
「不味い!」
彼らが握っていた松明が地面に落ちたせいで、山火事が広がりかけていく。感情的になりすぎた。俺は慌てて素材を消費し、スキルを使用した。
「出来るか、いや、できるはず。レディメイド! スコール‼」
火事にはやはりこれだ。ごろごろと音を立てて森を覆う、暗雲。たちどころに暗雲は森を傷つける彼らに対し怒るように雷鳴を轟かせ、大粒の雨を降らしていく。
「ば、化け物!」
放火しようとしていた兵士の一人が、俺たちを見て恐怖に怯えた口調で叫んだ。化け物はどっちだ。
「くそ、素材10も消費するのか」
「しかたありません。自然ですしこの範囲です。必要経費でしょう」
クモの糸で地面にあおむけに捕らえられた兵士を見下しながら、メイドは彼の首にギロチン刃を落とすように、足を置いた。彼のスカートを覗く様子もない兵士は、ただただ未知の生物に遭遇したかの如く、悲鳴を上げた。
「ひっ」
暗雲を背景に、雷が鳴り響く。怯える兵士も死にたくないのか、「命令だったんだ」と命乞いをしてきた。「ほう、誰にです」とメイドは問いかける。
「お、王だ。街に災いを呼ぶ、魔女が来たって」
「戦争するというのは本当ですか?」
「ほ、本当だ。今だって、城でドワーフたちが武器を、うぐっ!」
「ドワーフたちが何だ! 言え!」
ダグラスがクモの糸に体が触れないように兵士に近づき、声を荒げた。
「お前、元王子のダグラスか」
顔見知りなのか、兵士がダグラスの顔を見て叫んだ。だがダグラスは彼の顔を殴り、「いいから答えろ!」と叫んだ。
「自分の目で確かめ、なっ」
その言葉を最後に、兵士がこと切れてしまう。自ら舌を噛み切ったようだ。悔しそうに死人の顔を踏みつけるダグラスには悪いが、それは俺の素材なんだ。回収させてもらう。そう思った矢先、素材の耳に見覚えのあるリング状のピアスに気が付いた。これは……間違いない。「奴隷商人が使っていたものですね」メイドもそれに気が付き、まだ生きている兵士の耳からそれを無理やりはぎ取った。耳から垂れる血とともに、見る見るうちに顔を青白くさせる兵士。間違いない、これは奴隷のピアスだ。
「兵士まで奴隷化するか。ますますもって、向こうも兵士集めに必死らしい」
「行こう」
2つの素材を回収し、そのうちの一つをアロガンスベアに生成して森に放つことにした。この雨音だ。彼のような図体でも発見しにくいはずだ。まあ、発見したからと言ってどうということは無いのだが。後で回収したいなあ。そんなことを思いながら、俺たちは再び今度は雨避けとしてマントを深くかぶり、オオグモに乗り込んだ。だが城を目前に控えて、トラブルが発生した。城への桟橋が跳ね上がっており、谷底に流れる荒れた川が、俺たちを城に行かせまいと叫ぶように、ごおごおと荒れた音を響かせていた。
「どうする!」
ピーターがダグラスに問いかけるも、ダグラスは桟橋は城からじゃないと操作ができないと歯痒そうな表情を浮かべていた。
「問題ありません」
「そうだな。オオグモ! 全速前進だ!」
俺の命令を受けたオオグモは、大きく胴体を膨らませて、まるで砲弾を放つように城の城壁に糸を吹きかけた。数十メートル先にあろうその城壁に対し、簡単に糸を命中させるオオグモは口元に残る糸を手に取り、地面に塗りたくっていた。
「振り落とされるなよ?」
今度ばかしは多少気を付ける必要がある。俺たちはオオグモにしがみつき、まさしくクモの糸を伝いながら目的地へと向かっていく。なにやら城の方や森の方から悲鳴のような声が聞こえるが、俺たちには関係ない。なにせ今は雨。相手も火気は使えない。弓にしても、こちらに向けた瞬間オオグモの槍糸で狙い撃ちだ。1分もかからず城の城壁にたどり着いたオオグモは、今度はぺたぺたとそびえたつ壁を登っていく。さすがにこの時は落ちるかと重い焦ったが、オオクモは左右の足で落ちそうな俺たちをさせながら、登ってくれた。
「ここが城か」
城の城壁を登り終えたオオクモはジャンプ一番、城内へと着地した。さすがに城内までは俺の生成した暗雲は届いていないようで、城壁の傍の地面しか湿っていない。城内は螺旋階段の様に、傾斜のある外壁に覆われた石畳の道となっていた。
「来る!」
わかってる。ピーターがオオグモから降りて、警戒するように耳を澄ませる。入り口近くからか、本願から降りてくるのか、どちらから敵が来るか聞き分けているようだ。足音の方角を調べている。ありがたいが、今は関係ない。なにせこちらは、オオグモがいるのだから。そう思った矢先、嫌な地響きが俺のネコミミに入ってくる。
「ダグラス‼ このあたりの地形は詳しいか?」
ダグラスは俺の問いかけに、ああ。とうなずいた。なら話は早い。
「メイド!」
「お断りします」
お、おい。そこは勢いで頷いてほしかった。だが、そういう性格じゃないもんな、お前。俺の視線に彼は、「わかっているようで何よりです」とオオグモから降りた。それにつられてか、ダグラスやララもオオグモから降りてしまう。登るのは大変そうだったが、ララは降りるときはぴょんとジャンプをして、地面へと着地している。大したものだ。
「来るか」
俺たちを挟み撃ちをするように現れたのは、スカーほどの2メートルを超える体格の獣人を尖兵とした兵士たちが、大量に集まってきた。まるで地獄の悪鬼のように、獣人は金棒を握り、興奮したように鼻息荒く、嘶いている。
「たった5人じゃねえか。つまらねえなあ、兄弟!」
「そうだな兄弟‼ お、クモいるじゃねえか。あとで炙ろうぜ」
威嚇するように大声で会話する獣人たちは、会話する余地を持つ様子はない好戦的な態度を見せている。
「牛と、馬の獣人か? でかいな」
ブラウンの体毛を持つ牛の獣人と、黒い体毛を持つ馬の獣人か。あいつらも奴隷なのだろうか。そう思ってダグラスの方を見ると、彼は怯えたように驚き声を荒げた。
「あれは!」
知ってるのかダグラス。そしてピーター。ララの方も見てみるが、ララは初見だったようで怯えているだけだ。ララを見ると何となく落ち着くなあ。
「馬鹿な……あいつら、悪鬼のゴーズとメーズじゃないか! あいつらまで奴隷になっていたのか」
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