第9話 スキル持ちの元王子、ダグラス登場!
「頼む!」
思わずパンをかじる手を止める手を止めて彼を見ている俺たちや、その迫力に驚いたのか持っていたパンをぽろりと床に落としてしまうララ。ララは慌てて床に落ちたパンのかけらを拾い、手で埃を払って口に入れていた。視線がララの方へ移ってしまっていたのか、恥ずかしそうにララは「こんな綺麗な食事、久々だから」とはにかんだ。
綺麗、か。まあ看板娘とはいえ奴隷は奴隷ということだろうか。まだアクセサリーの様に耳に装着されたララのピアス。一応店主が俺の奴隷になったから、ララは奴隷なのだろうか。奴隷など持ったことは無いし、持つ必要性が無かった俺は椅子に腰かけなおし、食事を中断してダグラスの方を見るララを見た。
「命令してみればよいのでは?」
メイドが俺の脳内を察しているように、ララに指示を出せばよいと俺に問いかけた。ララも慌てて立ち上がり、メイクの落とされたあどけなさそうな顔をあたふたさせている。
「あの店主なら、もういないですし」
冷たく状況を俺に説明するメイドは、年下のようなララを見つめている。蛇に睨まれた蛙の様に、その場から固まって動けなくなっているララは不憫すぎる。
「え、えっと」
やっとの思いで口を開く、涙目の彼女に俺は「ああ、大丈夫。気に障ったことは何もないから」と落ち着いてという意味を込めて、「気にしないで。朝ごはん続けて」とララに声をかけた。するとララは動揺したような姿を見せるも、朝ごはんを食べようとはしなかった。
「命令は効かないようですね。どうやら、彼女はもう奴隷で無くなったかと」
あしらう様な冷たい声で、メイドは「よかったですね」とララに言った。訳が分からないように首を左右に振って状況を飲み込もうとするララに、俺も「自由になったんだよ」と頭を撫でた。細く少し癖のある柔らかい髪の毛は、くしゃりと俺の手でたわんだ。
「そ、それって」
ララはその言葉の意味をようやくのみこみ、あふれんばかりに大粒の涙を目に浮かべて、床にこぼしていく。あー、もう。なくんじゃないよ。俺は彼女を抱き寄せ、彼女が落ち着くまであやすように慰めた。その横でなおも頭を下げ続けている男を無視するわけにもいかず、俺は彼に事情を話すよう席に促した。
ありがとうと顔をあげて立ち上がった彼は、出し渋るように悩んだ様子を見せ、吐き出すように「こんななりをしているが、俺は傭兵じゃない」口を開いた。
「そうか」としか俺は言えなかった。なにせ、俺はこの世界どころか、この街の事情なんて知らないよそ者だ。しっているのは、メイドと旅した前の世界の事だけだ。俺は胸にララを抱きながら、彼の話を聞いていた。なぜか背後から殺気が漏れているような気もするが、怖くて振り向けない。
「実は俺は、この国の王子だ」
「そうか。って、王子?」
俺の質問に首を縦に振った彼は、服の下に隠した良く出来た金細工でできた太陽のような形のペンダントを見せてくれた。うぉ、すごい。これ本物か。俺は思わず後ろに振り返り、メイドに鑑定してもらおうと思った。だがその視線の先にいたのは、まるでこの世界に冬の訪れを示すような、蔑んだ視線を持ったメイドだった。
「おそらく金です。それも純度が極めて高い。まあ、それを気にした貴方は不純な気持ちで一杯でしょうが」
「なんだよ、その言い草」
抗議した俺に対して、メイドは俺に自分の胸元を見るよう指でジェスチャーをしていた。見ればララが解放された嬉しさや寝不足がたたっていたのだろうか、眠りについていた。
「それでも彼女を抱きたいならら、どうぞご自由に。私は止めませんが」
つんけんしつつ、明らかにメイドはララを邪魔ものとしていたようだった。相手は子供だぞ? もしかして嫉妬か。そう思っていた矢先、俺の頬の横で風を切る音が聞こえた。
見れば、メイドが真っすぐに拳を放ったように、腕を伸ばしていた。
「失敬、虫がいたと思ったのですが。いませんね。ララはソファに寝させてあげましょう」
メイドはそういって俺の胸からララを受け取ると、近くのソファにララを寝かせていた。そしてこちらに戻り、まだ俺の方を見ていた。
「どうした?」
「なんでもありません」
顔をそむけて不機嫌そうなメイドは、そのままダグラスと俺の3人で話を聞こうとあいている席に腰かけていた。申し訳ないような顔をしたダグラスが、話を続けてよいだろうかと俺たちに問いかけてきた。どうぞ。つづけて。
「正確には、元王子だ。俺もそうだが、元国王も、今はこの国では王の座を奪われている」
村では姫に会ったが、今度は王子か。珍しいものを見たと思いながら、俺は黙って彼の話を聞くことにした。すると、国の生い立ちから語ろうとされたので、さすがにそれには待ったをかけた。
「ダグラスが元王子だって証拠はあるのか?」
「そうだな……これでいいか」
ダグラスは周囲を見渡し、部屋の隅に落ちていた皮の鞘に入ったダガーを手に取った。ついでに他にも床に落ちている布袋を手に取り、中身を確認する。
「お前ら、スキルって知ってるか? って、知ってるよな」
彼は目の色を変えたように、据わった目つきになりダガーを鞘から抜いて、むき身の刃をこちらに見せつけた。
「今の私はひどく機嫌が悪い。それだけは理解してもらう」
「ち、ちがう! 俺はただ適当なパンが欲しいだけだ」
「阿呆、お前に言っていない。レディに言ったんだ」
拳を作るメイドを見たダグラスは、殺気を放つメイドに慌てて釈明するようにこれを見てくれと、あまり上等とは言えない手入れのされていなさそうなダガーを見せつけてきた。それに続き、布袋の中からペンダントにできそうな小ぶりの赤い宝石を取り出した。
そしてそそくさと自分の食べかけのパンを手に取り、ダガーでパンを切ろうとした。だが切れ味が悪いのか、パンを着る途中で刃が止まってしまう。だがまあ、これは良さそうだな。俺は彼の持つダガーではなく、赤い宝石に気がとられた。ルビーか? それとも、この地特有の宝石か?
「それはまあまあ金になりそうだな」
俺は彼が袋から取り出してテーブルに置いていた宝石を近くで見ようと、手を伸ばした。だが彼に待ったをかけられた。
「今から俺のスキルを見せる。驚くなよ」
ダガーと宝石を並べるように床に置いたダグラスは咳ばらいをした。
「みてろ」
椅子に座りながら彼のスキルを見物している俺たちに、彼はにやりと笑った。
「大地より出でし別れた魂よ、再びこの手に集い願う。コンバイン!」
ダグラスはゆっくりと詠唱を唱えたかと思いきや、気力を込めるようにスキル名? らしきものを叫んだ。すると赤い宝石とダガーが突然振動し、ぶつかり合うように互いに混ざり合った。
「これが俺のスキルだ」
真っ赤に燃える炎のような乱れ刃を残す、ダガーが床に落ちていた。ダグラスはそれを拾い、先ほど切るのに失敗したパンを手に取った。
「おお!」
俺は思わず、声をあげて彼のスキルを手放しに誉めてしまう。だってすごくないか? 先ほどきれなかったパンに刃を入れた瞬間、今度は焼き音をたててパンを真っ二つに切ったのだ。
「俺はドワーフ族の王子、ダグラス。スキルは武器合成だ」
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