第10話 マネキン?それとも本物?チートスキル『レディメイド』本領発揮!?

「すごいな」

 俺は彼を誉めて、切られた表面がこんがり焼き色を付けた黒パンを手に取った。香ばしい匂いだ。うまそう。そう思っていたら、俺の手をぱしりと叩かれてしまった。

「はしたないですよ。それに、トーストが良いなら私が用意しますし、自分でもできるでしょ?」

 メイドはまた母親の様に俺が粗相をしたような対応を見せている。お前は俺の親か?

「親っぽくしてほしければ、してあげますよ。レディちゃん」

 やめろ。鳥肌立つ。それになんでちゃん付けだよ。

「それより、自分でって焼けってか。この火事が全くできない人間に、なんてひどいことを」

「そうではありません」

 メイドはそういって、アイテムボックスから素材を一つ取り出すよう指示を出してきた。俺はそれを手に取り、メイドを見た。まさかこれで作れって?

「ええ。出来ると思いますが」

 仕方ない。物は試しだ。それに出来たら、結構この先便利になる。

「レディメイド」

 俺は今度はこちらの番というように、ダグラスの前でスキルを使った。まあ二度目三度目のお披露目になるのだが。

「これでいいか?」

 ため息をつくメイドに、俺は鼻息を小さくならして、誇った。成功だろ?二つの意味で。

「ば、馬鹿な……」

「な、なんで」

 俺を中心にサラウンドで驚いた声を漏らす、男の声。

 それもそのはず、鏡もないこの場所に、自分と同じ姿の男性が目の前に立っているのだ。だれがそれを平気に受け入れられる? だが、確かにできたな。生きている人間を作ったことは、一度もなかったんだが。

「だれが彼を作れと言いましたか」

 頭を悩ませるように苦言を呈してきた。またか、メイド。だが見ろ! これでこれから好きにトーストを作れるぞ! それどころか、他のモノだって!

 困った表情のメイドは、ちらりと俺が作った男を見てため息をついた。

「私が言いたかったのは、彼じゃなくダガーを複製しろってことです」

「なんだ、そんなの確認するまでもなく、出来るに決まってるじゃん」

 俺は朝飯中だが朝飯前というように、素材の一つをレディメイドで炎を宿したダガーを作った。ほらな。俺は腰に手を当てて、威張るように胸を張った。なにせ、こんだけ精巧に作ったんだ。自信作だ。

 俺はそう思いつつ、先ほど生成した彼を見た。無精ひげや弱そうな優男の顔も体格も、再現できている。完璧だな。

「どうなってんだよ!」

 どっちだ? ああ、俺の体面に立っているからオリジナルか。

「どうした、ダグラス」

「どうしたってお前、その力」

「ああ、スカーフェイスを作った時と要領は一緒だよ」

 俺はアイテム欄から、スカーフェイスを選択して召喚した。先ほどまでいなかったはずの巨漢が、俺たちの前に現れて無言で石造の様に立っていた。

「そ、そうじゃなくて。俺も作れるのかよ」

「みたいだな。なあ、メイド」

 俺は作るように指示したメイドの方を見た。すると、脇から「おいおい、俺を無視しないでくれ」と落ち着いた様子のダグラスが声をかけてきた。ううん、わかりにくいな。俺は俺が作った方のダグラスの胸に下げていたペンダントを受け取り、ちょっとした差分を作った。

「にしてもしゃべれるんだな」

「ありがたいことに、レディが俺に嫌悪感を抱いていないようだったからだろう」

 そういうと、ダグラス偽は俺の前でかしずくと、感謝を示すように俺の手の甲を手に取り、キスをしてきた。

「美しい主で幸せだ」

 それが彼の、最後の言葉だった。わけではない。続いてあふれんばかりの悲鳴が漏れた。なぜなら、キスをしおえた瞬間、彼の頭がまるで鷲や鷹にさらわれるヤギの様にメイドの手により持ち上げられたからだ。

「何をなさって?」

 悲鳴を上げるダグラス偽を前に、何もしていないダグラスも恐怖で頬が引きつっているようだ。俺はダグラス偽をアイテム欄に戻し、ついでにスカーフェイスも戻した。握っていた感触が消えたメイドは、忌々しそうに舌打ちをし、手に持っていたハンカチで俺の手の甲を拭いている。

「唾液は汚いですから」

 これも仕事だというように、たんたんと手を拭うメイドは、確かめるように先ほどダグラス偽が行ったように、俺の手の甲に顔を近づけた。だが唇が触れる感覚はせず、上目遣いでメイドがこちらを見ていた。

「してほしかったですか? なら手を洗うことですね」

 なんだそれ。ていうか、誰がしてほしいって言った。抗議だ抗議!

「抗議は夜のみ受け付けます。二人の時だけ。それ以外は周囲に迷惑です。みっともない」

「みみみ、みっともないだと!? このメイドが! ちょっと顔が良いからって、強いからって、頼りになるからって横暴だぞ!」

 がなり立てるような俺の抗議に、なぜか頬を染めるメイド。なんだこいつ、変態なのか。違った。ごめんなさい。衝撃音とともに椅子の座る部分に丸い穴を作ったメイドの拳を前に、俺は「愛してるよ」と降伏の意思を示した。なんでそんな言葉が出たのかは、俺には理解できなかった。

「それでよいのです」

 満足そうな表情で、美しくも冷淡そうだった容貌をゆるませるて微笑むメイドを前に、俺は主従関係逆転がまだ続いているのだろうかと、頭が痛くなってきた。手慰みに触るこのネコミミだけが、俺の癒しだよ。

「昨晩からめちゃくちゃだとは思っていたが、思ったよりめちゃくちゃだな、あんたら」

「そうか? あ、偽のペンダントが消えている。そうか、あいつを戻すとそれも消えるのか……」

 金策には使えないな。そう思いながら、なぜか床に座っているダグラスが目に入った。どうした?

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