第11話 没落王子と過保護メイドからのお願い

「規格外だな、本当」

 やれやれとため息をつき膝に手をついて立ち上がったダグラスは、メイドの方にもスキルがあるのか聞いている。だがメイドは秘密事項ですと、ツンとした返事をした。俺も知らないスキルがあるのだろうか。今度聞いてみよう。ダグラスは棘のあるメイドに力を貸してくれと頭を下げている。

「いいよ。俺もこの街には用事あるし」

 本当か!?と驚く様に、顔を明るくさせるダグラス。対して、人を信じすぎじゃないかと蔑むような冷ややかな視線のメイド。炎と氷のような視線が俺に送られる中、俺はメイドと肩を組んで、彼の耳を隠す長い金髪を指でかき上げ、耳打ちしてやった。

「嘘をついているかは複製したダグラスに聞けばわかるし、嘘をつくメリットは無いし。いざとなれば、お前もいるし何とかなるだろ?」

 目を閉じて俺の耳打ちを聞くメイドは、少し肩が震えている。怒っているのか? メイド? 聞いてる? 彼は息を漏し、目をつぶってわなわなと体を震わせているように小さく頷いた。よかった。断られたらどうしようかと思ってしまう。最悪17号を作るしかないと諦めかけていたしな。

「サンキュー、メイド」

 恥ずかしかったのか? 少し頬を上気させる彼にすこし悪い事をしてしまったかもしれない。後でご機嫌を取らなければ。おっと、遅かったか。沸騰したように顔を真っ赤にさせた彼のお説教が始まってしまった。俺の襟をつかみ、一階に連れていく彼。その力は強く、逆らうと何が起きるかわからない。というか、メイドも俺が作ったんだよな? なんでこんな乱暴なの?

「レディは私が黙ってほしいですか? 彼らの様に」

 俺が蘇らせたコックたちが無言で佇む厨房を一瞥し、彼は壁に俺をたたきつけるように押し倒し、壁に手を押し当てながら質問をなげかけてくる。少し怯えているのか、いつもより鋭さが無い憂いを帯びた瞳。震える吐息が顔をくすぐる。黙っている俺に対し、彼は覚悟を決めたように生唾を飲んでいる。それを見た俺は首を横に振り、思ったこと吐き出した。

「いや、別に。一緒にいて気が楽な時もあるし」

「そうですか。ですが、い、いいですかレディ! 二度とこういうことを人前でしないでください」

 わかってくれたのか、彼は俺の言葉を聞き安堵のため息をつくと、俺の襟元から手を離し、壁に触れていた手についたほこりを手で払っている。話は終わったみたいだし、戻るか。厨房を出ようとした俺の背を抱きしめられてしまう。

「メイド?」

 な、なんで抱き着くんだ? 耳元で誰にも聞こえないように囁いていた。

「私は裏切りません。これは貴方が私を作ったからではなく、個人的意思としてです。私はあなたを守る。だからあなたは無理をしないでください」

 お、おう。彼は言うだけ言うと、戻りましょうと俺の手を握り二階に戻っていく。あれよあれよと二階に連れられると、ダグラスが察したように俺たちを見ている。

「済んだのか? いや、聞くのは野暮だな」

 俺はメイドが俺に座るように引いた席に座り、本題に戻ることになった。

「エルフには会ったか? ララじゃない。エレンミアだ」

「ああ、会ったぜ」

「なら話は早い。昔、数十年前にここは俺たちドワーフ族が支配していた城や町だった。職人気質な俺たちの種族は、その力をいかんなく発揮するために街を作ったよ」

 そうか。もう少し下水整備をしたほうが良いような気がするが。

「昔はもう少し景観や衛生面が良かったんだが、エルフたちの村は臭かったか?」

「いや、土臭かったり、獣臭以外は普通だったな。水も綺麗で旨かった」

「そうか、その彼女たちと俺たちは、共存共栄していたんだ。あいつらが来るまではな」

「あいつら?」

 苦々しそうにコーヒーを飲みながら、ダグラスはベランダの方を見た。その視線の先に遠めだから全貌はわからないが、とんがり屋根の城が見える。

「奴らが来たんだ。俺たちエルフ族は少し違うが、ドワーフ族はもともと職人気質な気もあり、外界からの来客には寛大だった。むしろ彼らが持ってきた物に目を輝かせて、友好的に彼らを迎え入れたよ。そんななか、町には一人、また一人と人間が増えていった。そうした中で、奴らはとうとう本性を現した」

 手持無沙汰な俺は、彼の話を聞きながら少し硬くなったパンをぬるくなったミルクに浸しては上げてを繰り返していたようだ。後ろに立つメイドが小声で俺を諭してくる。おっと、すまない。

「で、その人間たちを制圧しなかったのか?」

「しようとしたさ。だが、やつらは友好的なふりをして自分たちの町にドワーフ族を数名招いたりしていたんだ。異文化交流と称してな。後になってわかったが、その彼らが馬車馬のごとく働かされて、武器を作っていたんだ。同族を殺すための武器をな」

「それでエルフたちはあんな粗末な村に」

「ああ。彼女たちは元々人間が嫌いな傾向にあった。なにしろ、清貧な存在だ。自然を過度にいじるのは嫌いなんだ。だから彼女たちは町に人が増えていくのを見て、去っていったよ。それと同時に、この近くの森で暮らしていた亜人、いや、獣人族と暮らしていることも。

「そうして俺たちは仲間を一人、また一人人質にとられてしまった。あのピアスでな。そして最後には、俺の親父も王の座を奪われたってわけさ」

「それで弱虫って言われていたのか」

「ああ。抵抗もせず、いや、できない俺たちを侮蔑する意味でな」

 なかなかに重い話だが、少々情けなくないか。それに、なんで元王族のお前は生きているんだ?

 俺の疑問を代弁するように、メイドが口を開いた。

「おかしな点があります。なぜ貴方が村を襲う仲間としていたのか、それにそのスキルを持ちながら、城を取り戻そうとしないのか、奴隷になっていないのか、怪しい点は多々あります」

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