第5話 報酬はエルフの秘宝クーリンディア‼ 救世主レディメイド、奴隷たちを救う!?


「レディ」

 あ、ああ。悪い。背後で俺の行為を窘めるような咳ばらいをするメイド16号の声で我に返り、姫様に謝罪した。

 ん? 先ほどより顔が赤いような気がするもが、気のせいだろうか。

「レディというのか?」

「ああ、みんなそう言う」

 姫様に俺の名前を教えると、名乗っていなかったなと俺に手を差し伸べてきた。

「この村の長、エルフ族のエレンミアだ。気軽にエレンと呼んでほしい」

 俺はその手を握り返し、よろしくエレンと話しかけた。何やらマトンが騒がしいが、エレンは気にしないでくれと俺に微笑む。色素の薄い肌が、ほんのり赤らめていて緊張しているのか? 彼女は俺に隣に座るよう指示を出した。言われるがままに、俺は彼女の指示に従った。すると、

「友好的なのは結構ですが、狙いは何でしょうか。エレンミア様」

 どことなく刺々しいメイド16号が、椅子に腰かけているエレンを見下すような冷たい視線で質問している。

「このものは、怒っているのか? ええと、名前は」

「メイド16号。16号、もしくはメイドで結構です」

「そうか、数字というのも寂しいしな、メイド。レディともども、我々と友好関係を結んでほしい」

 姫様のわりに、意外とフットワークが軽いのか?エレンは16号に微笑むも、16号はこの国の事情を知らぬ以上、あなた方が味方とは限りません。とはっきりと、彼女たちと自分たちを線引きしていた。言わんとすることは分かるが、少々とげがあるのでは? マトンもなにやら、怒っている様子だ。だがしかし、エレンがそれを手で制止し、確かにそうだなと頷いた。

「奴隷商人に会ったな?」

「ああ。あの成金だろ?」

「うむ。我々亜人、まあ人間たちから見た場合の話だが、彼らにとって最高の道具として、仲間たちが幾人も捕らえられているのだ」

 ああ、確かにそんなこと言っていたな。この耳があるせいか、俺も亜人に間違えられたし。俺は自分の頭部に生えた、柔らかいネコミミをぷにぷに触りながら、頷いた。するとエレンは悔しそうに叫んだ。

「彼らは争いを好まぬ我々をだまし、幾人もの仲間を無残に使い捨てるように、虐げてきた!」

 あふれ出る怒りを表すように、忌々しいといった表情で力強くテーブルを叩くエレンは、真剣な目つきで俺を見つめる。

 嘘偽りのなさそうな彼女の瞳に、思わず目が奪われてしまう。吸い寄せられるような美しい翡翠のような色の瞳に、俺は目を奪われていきかけたが、俺のパーカーの襟首を引っ張る16号のせいで芸術鑑賞も強制終了だ。まったく、なんかしゃべるようになってから乱暴だな、こいつ。

「だから何だというのです。私たちに利益はありません」

「り、利益ならある! 無事我々の仲間を取り戻してくれた暁には、我々の宝、クーリンディアを差し上げます!」

 エレンの悲痛な叫びに、マトンがいけません! と声高に叫んだ。

「い、いくら助けてくれそうだからと、あの宝は、姫様のご両親が残した、唯一の」

「ですが、私はその宝よりも、民を守りたい」

 宝か。

「どんな宝だ? 見せてくれ」

「助けてくれた暁には、必ずお見せしましょう。いえ、差し上げましょう」

 エレンに俺の欲が見破られたのだろうか。簡単には見せてくれない。俺の欲望に反応したのか、16号が「交渉せずとも、ご命令とあらばここでやれますが」と、いつの間にか両手に白地の手袋をはめていた。それは前の世界でメイドたちがよくやっていた、後片付けのポーズだ。

「貴様たち! まさかそれが狙いか!」

 はやるマトンが、先ほどエレンの手を傷つけた短剣を手に取り、16号に刃先を向けた。だが、交渉は不要ですと言葉を放つとともに、お返しとばかりに、両刃の短剣の刃をためらいなく握った。

「血が出たからなんだというのです。この程度の武器で、血を流すことを恥じなさい」

 まるで林檎を砕くように、16号は刃を粉々に握りつぶした。そしてゆっくりと手の力を緩め、ぽろぽろと手のひらから刃の欠片や粉末になった刃を床にこぼれ落とした。

「ば、馬鹿な」

 その細腕のどこにそんな力があるのだと、マトンはその浅黒い顔を真っ青に変えていた。エレンはエレンで、「それが、貴方のスキルですか」と目をつぶった。覚悟を決めたのだと判断した16号は、「彼女を殺して家探しをします。レディ、宝さがしはその後で」と独断専行で俺のために任務遂行に移った。だが、何も抵抗しないエレンを前に、俺はやめろ。と16号に攻撃停止命令を出した。不服そうな16号が、欲求不満そうな表情で頬を膨らませてこちらを見ている。

「喧嘩しに来たんじゃない。それに宝は欲しいが、今は待て。エレン、随分諦めが早いな」

「ええ。勝てないのはスグに悟りました。ただし、私を殺せば宝はもう二度と手に入ることはありませんが」

 だろうな。その余裕、どこか既視感があった。俺は改めて、エレンに手を伸ばした。協力しようじゃないか。そのお宝もそうだし、町で暴れる大義名分ができた。俺の伸ばした手を見たエレンはくすりと笑い、「殺されなくてほっとしましたわ」と握り返してくれた。

 かくして俺は、町までの地図や簡単な食糧、丈夫な糸で縫われた布のバッグなどを彼女からもらい受けた。俺はそれらを、アイテムとして収納した。正直、ステータス欄のアイテム欄がある限り、リュックとかは必要ないんだがな。

「まあ、そのようなスキルまで」

 ん? エレンは使えないのか? 驚くエレンに問いかけると、私ができるのは他人のステータスを見るだけだと、俺に教えてくれた。

「ふうん、俺のステータスとやらも見たのか?」

「いえ、怪しまれてはアレでしたので。見ても?」

 微笑むエレンに、俺はどうぞと告げた。すると咳ばらいをしたエレンが、「マジックレンズ」と黒縁の眼鏡を装着していた。

「これ便利なんですよ。エルフ特有の能力で、森の野草が毒があるかとか、様々な生物の~」

 眼鏡を装着し、インテリそうな表情で彼女はうんちくを垂れ流していた。どうでもいいが、早く鑑定してくれないかな。そう思っていたら、16号が大きく咳ばらいをエレンに聞かせていた。じとっとしたような表情のエレンは、良い所だったのにというように16号に視線を送った。だが、気を取り直すようにそれでは鑑定させていただきますと、俺たちを見た。ふむふむと何か気になったように呟いていた彼女だったが、次第に驚きを隠せなくなったのか、徐々に戸惑う声を大きくしていく。そしてついには、固まってしまった。エレン?

「行きましょう、レディ。長居は無用です」

「あ、ああ」

 俺は自分のステータスが少し気になったが、別に知ったからといって特に何か変わることは無い。そう思ってその場を去ることにした。

 根城を出た俺たちは、町に着くまでに目立たぬようにJ1達を町に置いておくことにした。元々、彼らはこの村の住人だしな。

 メリーのような動物のような耳や髪質、角などの特徴を持った亜人たちに、J1を置いて行って良いか聞いてみると、最初は難色を示されてしまう。だが、メリーが目を覚まして見送りに来てくれたおかげで、話はスムーズにいった。

 最初はおびえていた村人たちも、メリーたちを守った話や、彼らがウルフマンに倒された村人が生まれ変わった姿と尻、自分たちに敵意がないことを知り安心してくれた。それどころか、新たな守り神というように、かえって深々と頭を下げられてしまう。そればかりか、亜人たちがお礼にと行商に出るときに使う、使いこまれた顔まで覆える旅人のマントを選別にもらってしまった。これは助かる。早速俺と16号はそれを装備すると、ほのかに獣臭さと草のにおいを感じてしまった。

 村を出て森を歩いている俺は、残りの素材を使って仲間を増やそうか考えていた。すると、隣を歩く16号が「また私を複製しますか?」と問いかけてきた。

「それも考えたが、今はいいや。とりあえず16号がいれば、俺は当面困らないだろうし」

 事実こいつのおかげで、前の世界も不自由なく生活できた。そう思って中性的な表情の彼の短い金髪を撫でると、「メイド」と彼は口を開いた。

「記号的呼び方は好きじゃありません」

 主張するように16号、いや、メイドはそういって、俺に呼び方を指定してきた。まさかの指示である。まあ別にいいか。しゃべるんだから、要求ぐらいするか。

「わかった。メイド。よろしく頼む」

 俺はメイドに手を伸ばし、握手をした。彼も手袋を脱ぎ、手を握り返した。彼の手のひらはJ1を凌ぐ戦闘力があるとは思えない、エレンと同じように柔らかい。相変わらず、すごいやつだ。

 こいつを作ったのは、一体誰だっけ。気が付いた時から一緒だったメイドとともに、見知らぬ森を散策するように俺たちは歩み続けた。

「道中死体があるかもしれないので、見つけ次第収集しておきましょう」

 メイドのアドバイスに従い、俺は道中素材探索や、メイドがなぎ倒すように倒していく大型生物たちを素材に変換し、アイテムとして収集していった。

「さて、着いたな」

 野宿をしなくて済みそうだ。俺は篝火が目に入った。街が近いようだ。さて、ここからだな。俺はメイドの方を一目見て、どうやって門番を突破するかを考えた。

 

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