第4話 村を救え? 敵か味方か、スキル持ちのエルフ姫登場


―メリーの村―


 マトンは立哨を他の亜人と交代し、自宅へと俺を招いてくれた。俺はそれに対し、目立つかもしれないがJ1を立哨代わりにと一体村の入り口に置いてきた。そしてこの家の玄関前でも、一体。あとは村の歩哨としてJ1を解放させていた。

 椅子などの無い、土の床に蓆を敷いただけの簡素な家だ。室内では俺と向かい合うように、メリーの父であるマトンが蓆の上に座っている。その父の膝を枕代わりに、緊張の糸がほどけたのかメリーはすやすやと眠っていた。俺は彼らから出された水の入った木のコップを受け取り、口をつける。うん、少しぬるいが柔らかくて良い水だ。

 水を口にしていたらふとマトンが俺に対して頭を下げてきた。

「息子を助けていただき、このマトン、礼を言わせていただきます」

 俺はそれに対し、助かったのはこちらも同じだと頭を下げ返す。すると彼はばつの悪そうな表情で、玄関前に立つJ1の方を見ていた。

「ああ、あれですか」

 不振がるのは仕方がない。俺は彼について、簡単だが説明した。死者を冒涜するようだが、メリーの仲間を媒介に召喚させた、戦士だと。

「なんと、そんなスキルが……」

 スキル? 驚くマトンに対し、この世界でもスキルがあるのかや、周囲の情報について問いかけてみることにした。するとマトンは、部外者に話してよいものかと悩んだ様子を見せるも、助けてもらったことも事実と俺にこの世界の情報を提供してくれることとなった。

「あ、ちょっと待って」俺は立ち上がり、咳ばらいをしてステータスオープンと唱えた。そしてその中のアイテム欄から、素材を一つ取り出した。出てきたウルフマンの死体に驚き警戒するマトンが、寝ている息子を守る姿がなんともほほえまい。俺はそのウルフマンの死体を素材であると伝え、「レディメイド」と唱えた。

 するとウルフマンの死体が光に包まれ、代わりに170センチほどの俺と同じくらいの背丈の人間を、一人作った。正確にはロボット? 人造人間?だが、長い金髪と中性的な顔を持つ、すらりとした肢体にメイド服をあてがう彼、メイドだ。その光景に、なんということだとマトンは驚嘆の声を漏らしていた。そうだろう。驚くよな、まあ。

 こんな精巧なロボットがあるんだから。

「マスター、指示を」

「うわっ、しゃべった!」

 俺の反応に、マトンが不思議そうにどうしてレディ様が驚くのですか?」と不思議そうに声を漏らした。いや、確かにそうなんだが。んー? 俺は警戒しつつも、きょうつけの姿勢で直立不動のメイドをじろじろ見て、手や腕、頬や足などを触った。いや、素材感はいつもと一緒だ。

「何をなさっているのですか?」

 またしゃべった。俺は驚き、目を細めながら本当に俺が作ったメイド?と、不思議そうな表情のメイドをじろじろ見ていた。だが、どうやら俺が作ったらしい。今までしゃべったことが無かったのになあ。そう思っていた矢先、説明は後でします。今は彼の話をというように、マトンの方を見ていた。

 あっけに取られていたのはマトンも同様だったようで、黙る俺とメイドを見た彼は改めて咳払いし、「我々森の民は、絶滅の危機にいるのです。どうかお助けください」と頭を下げた。どういうことかわからない俺たちに対し、玄関から一人の女性が入ってきた。清楚な純白のシルクのドレスを着た、耳の長い女性だ。清楚で気品のある光沢のドレスに負けない、金糸のような長髪。思わず隣に立っている俺のメイド16号と比較してしまう。比較的整った顔立ちだと思っていた、今はムッとした表情のメイドと比較しても、バランスの取れたその顔の造形は美しい。凛とした容姿の女性は、涼やかで切れ長な瞳で、こちらを見ている。思わず目が合ったままで、彼女の姿を目に焼き付けるように俺は彼女を見ていた。するとマトンが驚いた様子で立ち上がり、叫んだ。

「姫様!」

「そこの二人が噂の人間か?」

 正しくは一人と一機だ。彼女の問いかけに俺はそうだと伝え、立ち上がった。女性としては背の高い方だろうか、170センチくらいの背丈で細身の女性は、恭しい様子で俺に頭を下げてきた。

「村の者たちがすまない。助けていただいたまま、何も恩返しできることがない中で申し訳ないが、私の話を聞いてくれまいか」

 話?彼女はそういって、俺たちを村の一番奥にある生い茂った大木をくり抜いてできた様な家に俺たちを案内した。そして中に入ると、飾り毛の無い木材オンリーで出来た、めずらしい屋内を俺たちに見せつけていた。

 マトン曰く、ここは天然の城らしい。

―大木の根城―

「何もない根城だが、ゆっくりしてくれ」

 姫様はすまないと笑いながら、別の部屋に続く扉を開けて俺たちを案内した。

 道中給仕のような、雌型の牛のような亜人も見かけたが、敵意はなさそうだった。むしろ俺たちを見て、少し怯えている。

「安心しろ。敵ではない、そう信じたいがな。なあ、救世主様」

 澄んだ声で姫様は俺に微笑み、同意を求めているようだった。

 客間だろうか、大きな円卓のテーブルのある部屋に案内された俺の横腹を、隣で無言で歩いているメイド16号が肘でつついて咳ばらいをした。いいじゃねえか。こんな建物見たことないんだし。ん?この椅子に座るのか? 俺は切り株をくり抜いただけのような椅子に腰かけ、その背後に従者のように、メイド16号が立っている。まあ、従者と言えば従者なんだが。

 姫様も俺と同じタイプの椅子に腰を掛けながら、俺と同じように背後にマトンを連れている。姫様は両膝をテーブルに着きながら、指を組んだ。そして少し身を乗り出し、問いかけてくる。 

「あの見たこともない鎧兵について、聞きたいのだが」

「ああ、あれ」

 俺はあれについて説明しようとした矢先、姫様は「あれが死体で出来ているというのは本当か?」と問いかけてきた。俺はああそうだと頷き、背後のメイド16号の方を見た。

「こいつもそうだ」

 俺の言葉に頷いたメイドは、こくんと頷いた。

「なんと! そんな、そのようなスキル、聞いたことない!」

 スキルってこの世界でもあるんだな。俺は姫様にスキルなんて誰でもあるんじゃないのか? 

「通常スキルとは、このように自然の加護や選ばれたものしか、使えないの。見て」

 姫様はそういうと、マトンの腰に下げていた両刃の短剣を手に取り、その刃を握りだした。焦るマトンに対し姫様は、「静かに見ていろ」と痛みで少し顔を引きつらせながら、刃を握る手からぽたぽたと熟れたリンゴのような鮮やかな血を流している。

 うわっ、白魚のような掌をこちらに見せつける。一文字に切られた彼女の手のひらの傷跡。もったいない。せっかく綺麗な姫様の肌が傷物になってしまった。そうおもっていたら、姫様はこれがスキルだというように、「光受け萌ゆる若葉の如し、春風を纏いて我が身を癒せ。ヒール」と唱えた。すると手の平を光らせた姫様は、「どうだ?」と傷一つない美しい掌を俺に見せて手を振った。おお、すごい。今のどうやったんだ?

 気になった俺は立ち上がり、姫様に近づいて手のひらを握っていた。本当だ。傷跡がふさがったんじゃない。まるで先ほどまでの自傷行為が幻とでもいうように、ただの綺麗な掌だ。

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